写真

 大掃除をしていたら、古い写真を見つけた。高校の卒業式の日に友人たちとみんなで撮ったものだ。


 写っているのは私を含めて四人。それぞれパートは違うものの、吹奏楽部のメンバーだった。四人とも熱心に練習して、大会でもそれなりの成績を収めたけれど、音大に進みプロになったのは私だけだった。


 白状すると、私だけは「熱心」のベクトルが友人たちとは違っていたように思う。他の三人、いや吹奏楽部の部員たちは自分の実力の向上を目指して練習していた。単純に上手くなりたかったのだ。でも私は、上手い下手なんてどうでもよかった。私は友人たちとの関係をつないでいたかっただけなのだ。


 クラスに友人のいなかった私にとって、写真に写る三人の友人はかけがえのないものだった。失いたくなかった。だから、彼女たちと同じものが見えるように必死に努力して食らいついていたに過ぎなかった。


 そんな動機で楽器を吹いていた私が今、他の友人たちがなろうとしてなれなかったプロになっているなんて、皮肉なものだ。


 次の演奏会は彼女たちも見にきてくれる。そうだ。その時にこの写真を持っていこう。たまには、昔話に花を咲かせるのもいいだろう。

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