全ては『I』である

ヘイ

第1話

 ここに僕がいたと言うこと。

 そこで君が笑っていたと言うこと。

 それは正しくて、しかし、間違っている。

 二人は夕焼けの差し込む教室にいる。教卓の上、それはドラマのワンシーンの様に、カーテンは開けられ、そして、窓は開いているためか、心地よい風が吹く。

 夏ではあるものの、窓を開ければそれなりに涼しくはなる。

 それと共に、運動部の大きな声が聞こえて来る。

 こんな状況に酔いしれているのか、程よい緊張感がある。

「ーー付き合ってください」

 そんな言葉を吐く、憧れの彼女に私は即答した。

「勿論です!」

 と。

 それからは楽しい日々だった。一緒に下校したり、遊びに行ったり、キスをしたり、秘密を共有したり。

 君の笑顔に何度も惚れ直す。

「ひーくんは私の事、好き?」

 意地悪だな。

 言わなくても分かってるくせに。夕方の下校路、君は何度だって僕に尋ねるんだ。

「当たり前だよ。僕は君を愛してるんだから」

「君じゃなくてーー」

「分かったよアイ」

 そう名前を呼べば彼女はニンマリと笑顔を浮かべて、僕の右腕に抱きついて来る。紅葉の美しい公園近くでのことだった。

 そして、僕たちは大人になってその甘さと苦さを噛み締めてまた、その道を歩いている。

「ーーっきろ、バカ兄貴ー!」

 そんな声と共に腹に衝撃が走った。

「ゴフッ!」

 そして、僕の目が開いた。

「母さんが呼んでこいって」

 その衝撃は僕の小さな妹。と言っても彼女は父の再婚相手の連れ子なんだけど。

 それはそれとして、僕は彼女のことはしっかり妹として愛しているとも。

「酷いよ、アイ」

 僕の憧れの人と名前が同じなのだから。どうにも複雑な気分だ。

「兄貴ー、先行ってるからね」

 こうして、僕の夢が覚める。

 そう、これはideal理想。そして、僕の憧れの彼女の名前はアイである。

 何よりこれは僕のくだらない『imagine』である。

 もっとも、僕の目を覚ますのもアイであるわけだけど。

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全ては『I』である ヘイ @Hei767

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