第12話
12話
「なんだカイ、目の下隈できてんぞ」
「あら、ほんとだ、いくら休みだからってちゃんと寝たほうがいいわよ。なにしてたの?」
「いや、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ」
「そう、ならいいんだけど」
人の気も知らないで…
ゴードンだけは勘付いているようだったけど、目を合わせてくれない。
シルさんの店って睡眠薬売ってるかな。
「おいカイ食欲もねえのか?食わねえんだったら俺が食うぞ」
「はあ、いいよなお前は気楽で。それと、食わねえわけねえだろこんなうまいもん」
俺は当然朝食は食べ切った。
「あら、坊や達今日は仕事じゃないのね」
「そうなんですよアルさん。カイが剣を折っちゃって。」
「まあ、それじゃ仕方ないわね。それならシルのとこで買うといいわ。きっとサービスしてくれるはずよ。ちょうどテミアの中央あたりでお店開いてるから。」
「ええ、そうします!それと、旦那さんにお料理いつもご馳走様ですって伝えといて下さい。」
「まあ、旦那も喜ぶわ直接言ってあげて。あなたーちょっといい?」
「どうした?なんかあったのかアル。」
「この子達が言いたいことあるんですって。」
厨房から出てきたのは大男。狼人族どころか獣人ですらなかったが、もはやそんなことはどうでもいい。
一言で言うならば筋骨隆々。ゴードンが横に並ぶとゴードンが小さく見える。
俺やライエルと比べたらもはや子供だ。
想像と違いすぎてフリーズしてしまった。
「ああ、えっと、いつも美味しい料理ご馳走様です。」
「俺の飯は美味いか?」
「それはもちろん!」
他のみんなもコクコクと頷いている。
「そうかそうか、そうだろう。俺の飯は世界で2番目に美味えからな!!これからも残さず食ってくれや」
「当たり前だぜ!あんなうまい飯残したくても残せねえよ」
ライエル、お前なんでそんなビビんないんだよ。アルさんの旦那さんがそんなことしないのは分かってても、怒らせたら一撃でぺしゃんこにされるんじゃないかってびびり散らかしてんのに。
「嬉しいこと言ってくれんじゃねえか坊主!今日から大盛りにしてやる!」
「やったぜー!!やっぱ料理のうまいやつに悪いやつはいねえな」
「おうともよ!」
もう仲良くなってるし…
宿屋を出てすぐ、今日から筋トレをする事を誓った。
アレには勝てる気がしないけどね。
「シルさんのお店ってどこだろう」
早く盾が見たいのか、目を輝かせたゴードンが言う。
アルさんは街の中央あたりって言ってから、この辺だよな?
そう思って辺りを見渡す。
見覚えのある旗を見つけた。
シルさんの荷馬車にもあった、狼と月のマークだ。
この世界には日本のように看板などはない。その代わりに冒険者ギルドのように屋根などに独自の旗を立てる事が多い。
街並みが綺麗なのはそういう無駄な文字とか色が目に入らないからかもな。
「あの建物じゃないかしら?」
レナも俺が見ていたのと同じ建物を指差す。
「ああ、きっとあそこだ。行ってみようぜ」
「うん!楽しみだね」
中はさまざまな商品でごった返していた。
清潔感はあるけど、統一感はない。そんな印象だった。
「いらっしゃい、何かお探しですかな?」
初老の男が話しかけてくる。
「すいません、シルヴィーさんに会いにきたんですけど」
「会長に?ああ、そうですか。あなたがカイさんですね。すぐに呼んできますね。」
事前に俺達の話をしてくれていたようで、説明の手間が省けた。
命の恩人なんですって自分で言うのも恥ずかしいし。
「ダンナ達!来てくれたんすね。立ち話もなんですから奥の部屋に来てくだせえ!」
そう言われて奥の部屋に案内された。
そこは、先程とは違い商品一つ一つが丁寧に陳列されていた。
そのさらに奥の部屋には、大きめの机とイス、シルさんのものであろうデスクがあった。
「とりあえず、座ってくだせえ。うちは手前が民衆向け、真ん中がVIP向け、んでここが商談用の部屋になってるんでさあ。気に入ってもらえやしたかね?」
「ええ、すごく!」
というか、思っていたよりすごい。
独立したばかりだと言っていたし、もっと小さい場所だと思ってた。VIPのとことか桁が2つも3つも違ったんだけど、シルさんって思ったよりすごい人かもしれない。
「そいつはよかったです。それで、今日は何か入り用だったんですかね?それとも、あっしに会いに来てくれたとか?」
「どちらもです。実はメイン武器を短剣にしようかなって思ってて、後はマナポーションを2つの程」
「なるほど、予算はどれくらいですかね?勿論旦那達にはサービスさせてもらいやすぜ!」
「んー、最初のうちはあんまり良い武器は使うなって師匠にも言われてるんで、新人冒険者が使う普通のやつがいいんですよね。ずっと短剣でいくかも決めてないですし。」
「なるほど、良い師匠でさあ。今は実力をつける時ってことですね。ちょいと待っててくだせえ」
シルさんは部屋を出て行くと、真っ黒な短剣とマナポーションを持ってきてくれた。
「これは手前の部屋で1番良い短剣でさあ。旦那達に粗雑なもん売るわけにもいかねえんで。マナポーションも、なるべく状態の良いやつを持ってきやした。代金はいらねえんで貰ってくだせえ!」
「いや、それは流石に悪いですよ。」
「旦那達は命の恩人ですのでこれくらいはどうってことないでさあ。それにこの短剣は切れ味は1番でしたけど、真っ黒なのが不気味なのか誰も買わないんですよ、何で作られてるのかも、あっしの目じゃ分からなかったですし。もう一本は、ダークウルフの牙で出来てやして、上等ではありやすがその辺にあふれていやす。なんで、代金は死んでも受け取れねえです。」
悪いとは思ったが、シルさんは本当に受け取ってくれなそうだった。
「分かりました。ありがたくいただきます。ありがとうございます。大事に使いますね」
「ええ、そうしてもらえると短剣も喜びやす。」
「シルさん!俺とゴードンはなんも買わねえんだけどVIP部屋の剣と盾見ても良いか?」
「もちろんでさあ。あそこにあるのはあっしの自慢の商品ばっかりですので、見てやってくだせえ!」
ライエルとゴードンの買う気のないウィンドウショッピングは2時間も続いた。
この武器マニアと盾マニアどもめ。
レナなんて途中から飽きて、外で服を見てくると言って出て行ってしまった。
俺も最初の1時間は楽しんだけど、もう1時間は奥の部屋でシルさんと雑談していた。
ちなみにこの時、睡眠薬について聞いてみたんだけどそういう魔法はあっても薬はないんだそうだ。くそう!!
「ふう、楽しかったねライエルくん!!」
「おう!久々に興奮したぜ!!」
「あんた達、長すぎなのよ!私が止めなかったらまだ続けるつもりだったんでしょ!」
どうやら戻ってきたレナが2人を止めてくれたようだ。
「終わったんですかい?旦那達。楽しんで頂けたようで何よりでさあ。」
「おう!俺たちが金持ちになったらまたくっからその時は欲しいもん全部買ってくかんな!」
「それは楽しみでさあ。」
「そうじゃなくても、盾とかまた買いにきますね。」
「へい!いつでも寄ってくだせえ」
それからは街で出店を回ったりして休みを満喫した。
ようし!新しい武器も手に入れたし明日から頑張るぞ!!!
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