第9話

 チコ村に着くまで魔物と遭遇することもなく無事着くことができた。


 チコ村はどこか俺たちの故郷ツチノキ村と似ている雰囲気があった。しかし、人は全くと言っていいほどいない。依頼書にあった通り、魔物が怖くて家から出れていないようだ。


 一刻でも早く不安から解放してあげたいが、村長にクエストに来た事を伝える必要がある。


 そのために村の家の一つを訪ねた。


 トントン


「すいません、村長の家の場所教えてもらえませんか?」


「もしかして、冒険者の方ですか?」


 ドアを開けて、村人が顔を出す。


「ええ、そうです。爪モグラの討伐に来たんですけど、村長の家が分かんなくて…」


「ありがとうございます。村長の家でしたらこの先1番奥の家です。畑仕事も出来なくて困ってたんです。」


「ママ?その人たちだあれ?」


 家の奥から男の子ごでてくる。


「怖い魔物をやっつけてくれる、かっこいい人たちよ」


「そうなのお!おうち出れるようになる?」


「ええ、私たちに任せておいて!お外でいっぱい遊べるようになるわよ」


「ありがとお!かわいい、おねえちゃん」


「聞いた?可愛いお姉ちゃんだって!やっぱり子供は嘘つかないのね!!」


「そんなのどうでもいいから早く倒してあげようぜ」


「どうでも良くは無いけど、そうね。早く倒してあげましょう」


 ライエルのやつ、レナの目にビビってねえ。俺は初めてライエルを尊敬した。


「ばいばいボク!悪い魔物を倒してくるわね」


 俺たちは子供とお母さんにお礼を言ってから村長の家へ向かった。


「おお!冒険者の方ですね。助かります。このチコ村には、戦える者がいないもんで、こういう事があるとテミアの冒険者の方を頼るしかないんです。」


 そういうと初老くらいの男は家の中に案内してくれた。


「それで、爪モグラはどこの畑で?」


「どうやら私の畑を気に入ったようで、2匹が私の畑の中で縄張り争いしているようなんです。」


「群れているわけじゃ無いんですね?」


「はい、1度ケンカしているのを見ましたので、間違いないかと」


「そんじゃ、1匹ずつやればいけそうだな」


「そうね。とりあえず畑まで行ってみましょ」


 畑はひどい有様だった。丹精込めて育てられたであろう食物は食べ荒らされて、ぐちゃぐちゃにされていた。


「ひどい…」


 珍しくゴードンが怒っているようだった。チコ村とツチノキ村を重ねているんだろう。勿論俺たちだってそうだ。


「モグラやろうでてこーーーい」


 ライエルが叫ぶが当然でてくるはずもない。野生の魔物なら違ったかもしれないがコイツらは腹がいっぱいでわざわざ俺たちを襲う必要なんてないのだろう。


「俺に考えがある」


「カイくん、何する気なの?」


「みててくれ」


「”ウォーター”」


 俺は爪モグラが掘ったと思われる穴に生活魔法で水を送り込んだ。


「なるほど、ボクも手伝うよ」

「俺も」

「私も」


「いや、レナは戦闘の時までマナを温存しといてくれ」


「ああ、そうね。じゃあ、頑張ってよね3人とも!」


「「「”ウォーター”」」」


 同時に水を送りこむ


「クックウウ」


 水でビショビショになった爪モグラが畑の中央から飛び出てきた。

 普通のモグラの3倍はある上に日本足で立っている。


「レナ!!」


「了解!!”アースボール”」


 岩の塊が爪モグラめがけて飛んでいく。爪モグラは意表をつかれたのか避ける様子はない。


「バンッ!!」


 当たったと思ったアースボールは爪モグラの爪によって切り裂かれた。

 あんな爪で攻撃されたら一撃でアウトだ。魔物のインフレが凄すぎる…


「囲んで、叩こう!」


 俺とライエル、ゴードンは爪モグラ目掛けて駆け寄る。


「”ウォーターボール”」


 今度は切り裂かれないようにレナがウォーターボールを放つ。

 切り裂かれはしないが、今度は避けられた。


 時間稼ぎには十分だ。

 俺とライエルは爪モグラの後ろに回り込む。そして、正面からはゴードンが。


 こうなってしまったら、いける。3人で距離感を保ちつつ、攻撃を加える。


 確実にダメージを蓄積させていく。しかし、もうあと一踏ん張りというところで爪モグラは地面に逃げ込む。


 まずい!!


「レナ!こっちに!!」


 今レナは孤立している。もし爪モグラがレナを狙ったら防ぐ術がない。


「ええ!”ウォーター”」


 レナは自分の1番近くにあった穴に水を入れてから、走り出す。

 俺たちの”ウォーター”とは水量が違う。


「クククゥ!!」


 先ほどの場所に爪モグラが現れた。

 びしょ濡れの状態で。


 あぶなかった…

 ゴードンの盾に付いている爪痕を見れば分かる。

 あの爪は本当にやばい。


 あいつが濡れてるってことは、レナのすぐそばまで近寄っていたってことだ。

 俺は俺に無性に腹が立った。

 その鬱憤を晴らすように爪モグラに斬りかかる。

 それが良くなかったのだろう。


 爪モグラは無事倒せたものの、俺の剣はポッキリと折れてしまった。


 爪モグラはもう1匹いるので、武器がないってのはまずい。


 話し合った結果、レナが護身用にと持っていたナイフを借りることになった。正直、この短い刀身では頼りないが、これ以上の刃物がなかった。


 先ほどの爪モグラがいた場所から1番遠い穴に、1匹目同様水を送り込んだ。


「「「”ウォーター”」」」


 1匹目よりも一回りでかい爪モグラがでてくる。


 今回も、俺とライエル、ゴードンで囲むが、俺はサポート程度で主な攻撃は2人に任せている。しょうがないじゃん、俺の短剣より爪の方がでかいんだもん


 レナもさっきの反省を生かして、俺たちに近い位置にいる。


 2人がダメージを与えていく。俺も爪モグラが俺に背を向けた隙に何度か斬り付けた。サボってはいない。


 すると、また爪モグラが地面に潜る。逃すまいとしたが、こいつら地面に潜るスピードが早すぎる。


 しかし、今回はレナともすぐに合流できる位置にいる。


「もう一度ウォーターで引きず」


「クククッ!」


 俺の目の前に地面から爪モグラが現れる。今度はレナじゃなく俺ならいけると思ったようだ。


 やばい


 俺はとっさに短剣で爪モグラの攻撃をいなした。


 なんだろう。いつもより身体が軽い


 素早く後ろに回り込み、爪モグラの首元に短剣を突き刺す。


 ダメージが溜まっていたのだろう。爪モグラは血を流しながら、倒れ込んだ。


「死ぬかと思ったあ」


 足から力が抜けてつい座り込んでしまった。


「「「………」」」


 3人は俺をじっと見つめて黙り込んでんでいると思ったら、こそこそと話し始めた。


陰口のようで、いい気はしない。


「なんだよお前ら!俺がサボってたとでも言いたいのか?しょうがないだろ長剣が折れちゃったんだから!!」


「カイ、お前気付いてないのか?」


「気付いてないって、何が?」


「カイくん、足が」


 足?自分の足を見てみるが違和感を感じる場所はどこにもない。


「なんにもなってないぞ?力は抜けちゃったけど」


「そうだ!カイ、ステータス見てみなさいよ」


 そう言われて、俺はステータスを見た。


 名前:カイ

 攻撃力:13

 防御力:11

 魔力:10

 素早さ:14

 ―スキルー

 ・シャドウステップ


「素早さが1上がってる!!」


「その下も見てみなさいよ」


 レナが呆れた顔で言ってくる。


「その下って…シャドウステップ??」

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