第6話
冒険者の始まりの街テミア。
そこが俺たちの目的地だ。テミアには名前の通り駆け出しの冒険者が集まる。周りに強い魔物は出ないし、難易度の低いダンジョンが周りに3つもあるからだ。
ツチノキ村から馬車で1日の距離にあるんだけど、その距離を俺たちは歩いている。
「なあ、休憩にしようぜ」
歩き疲れたのかライエルがそう言ってくる。
俺も休憩はしたいがこのペースで休憩を入れていたらテミアまで3日でつく予定が狂ってしまう。
「まだ歩き始めて3時間も経ってないだろ。我慢しろよ」
「嘘だ!5時間は歩いたぞ」
俺たちは時計を持っていない。なので、太陽の位置と体感でしか判断できない。
荷物は必要最低限しか持ってきていないつもりだが、いかんせん防具と武器が重い。合わせて2、3キロぐらいしかないのだが、ずっと身に付けているとなると身体にくるものがある。俺たちの中で唯一の盾持ちのゴードンはもっと重いだろう。
「修行だと思って我慢しろよ。大体金がもったいないからって、歩いて行こうって言い始めたのはお前だろ」
「そうだけどよ、魔物とか出ると思ったんだよ俺は。それなのに何にもないしつまんねえじゃん。なあ、ゴードンもレナも休憩したいよな?な?」
「僕は休憩しなくてももうちょっといけるけど、レナちゃんは?大丈夫?」
「んー、私はみんなと違って防具もないしまだいけるわよ?」
「決まりだな、ゴードンかレナが休憩したくなったら言ってくれ。その時に休憩を入れよう。」
「うげえええ、マジかよ。せめて魔物が出ればなー」
ライエルがこんなに魔物と戦いたがっているのには理由がある。俺たちは実は魔物と戦ったことがまだない。ルークにも師匠にも冒険者になってから、少しずつ慣れていけばいいと言われていたので、森にもあれ以来近づいていない。正直トラウマになってるんだよねあの森。死にかけたしね
「でも、この街道には魔物が出ることは滅多に無いって師匠も言ってたよね」
ゴードンのやつ…なんでそんなフラグが立ちそうなこと言うんだよ。
と思っていたけど、それから魔物が出ることはなく1日目を終えた。
日が沈んでからは、移動せず街道の側で野営をした。
もちろん野営の仕方も師匠から習っていたので、すんなりいったのだが。
俺たちは15歳。多感な時期だ。前世も合わせれば40は超えていそうだけど、俺はこの世界で生きている。多感なもんは多感だ。
レナがすぐそばに寝てる事を意識してしまって、俺たち3人はあまり眠れなかった。ただでさえ見張りで寝不足なのに…
2日目
朝食を食べるために準備していると、俺のリュックに見慣れない袋が入っていた。中を見てみると「餞別じゃ、少ないがパーティ資金として渡しておく」と書かれた紙と金貨が10枚入っていた。
こんな粋なことするのは師匠しかいない。見送りに来てくれなかったのは少しな寂しかったけど、俺たちのこと気にしていてくれたんですね。金貨10枚なんてほとんど自給自足のあの村では貯めるのも大変だったろうに。
「大切に使います。ありがとうございます」
俺は聞こえるはずもない師匠への感謝の気持ちを述べて、師匠にも必ず恩返しする事を心に決めた。
「しっかし、師匠もツンデレだよな。こっそりあんな事すんだもんな」
昨日と変わらない景色の街道を歩きながらライエルが言う。
ライエル…お前は人のこと言えないぞ。昨日だって疲れたとか言いながら、女の子のレナと盾持ちのゴードンが大丈夫だって言ったらすぐ引いてたろ。まだまだ余裕そうだったし、実は2人を心配して休憩しようって言い始めたのか?
俺はアホづらであくびをしているライエル見る。
考えすぎか…
ていうか、ツンデレって言葉この世界にもあったのか。もしかしたら、俺と同じ転生者や転移者なんかもいるのか?俺なんかが転生してるんだし、いてもおかしくは無いけど。もし、余裕があったらそっちも調べてみようかな。
「あれ、なんか変じゃない?」
考え事をしながら歩いていると、レナが言う。
レナの目線の先、前方を見ると、そこには荷馬車らしきものが、街道の真ん中に止まっていた。
街道の真ん中で止まるなんてどう考えても不自然。そう思い注視していると
「おい、ありゃ魔物だ、襲われてる!」
目のいいライエルがそう叫び、荷物を放って走り出す。俺もそれに続いてライエルを追う。
「俺とライエルが先行する、ゴードンは着きしだいレナを守るようにして戦ってくれ。レナは後方からサポートを!」
“素早さ”の高い俺とライエルが先行する事を伝え、走り出す。
テンプレすぎだろ…ゴードン、絶対お前のせいだからな!!!
俺はフラグを立てたゴードンに、フラグの概念を叩き込む事を決めた。
荷馬車に近づくと状況がはっきりと見える。襲っていた魔物はファンタジー世界の定番。醜悪で尖った耳を持った魔物、ゴブリンだった。
ゴブリンは群れをなすことで知られている。角ウサギなどほとんどの魔物は群れをなすことはないが、一部例外がいる。今回は、見える限りでは2匹。群れというよりはコンビだ。2匹ともボロボロの短剣らしき物を持っている。
それに対して戦っているのは男性が1人。しかも、耳と尻尾がある!
この世界で初めて見る獣人に興奮したが、なんとか抑える。状況が悪すぎた。
なんとか、逃げながら戦っているみたいだけど、押し切られるのは時間の問題。俺とライエルは、いっそう足を早めた。
「あんた達冒険者かい!?」
獣人の男がきいてくる。よく見ると血だらけで今にも倒れそうだった。
「そうだ!俺たちが来たからにはもう安心だ」
ライエルが言う。
正確にはまだ冒険者ではないが、まあ、そう言った方が安心するだろう。
それに相手はゴブリン2匹だけ。じきにゴードンとレナも着く。
4対2なら、なんてことないだろう。
身長170㎝はある俺の胸ほどの背丈のゴブリンと対峙する。
ゴブリンは素早く短剣を突き立ててくる。
俺は避けようとしたが身体の動きが鈍い。そういえば、まだ戦ってもいないのに息が上がっていた。あの程度の距離を走ったからと言ってここまで息が上がるはずがない。
身体に違和感を感じる。
「グハッ」
右肩に短剣を突きつけられた。
ルークとの修行では木刀か寸止めだったためか、こんな痛みを感じたのはあの時以来だった。
そう、この痛み、目の前のゴブリンの下卑た笑み、これらは、ルークのトラウマを呼び起こさせた。さらに、命のやり取りをしていると言う事実が俺の身体を強張らせた。
頭では分かっているのにどうしても動かない。
右肩から剣を握りしめている手まで血が滴り落ちてくる。
「グギギ、グギャア」
ゴブリンが再び切りかかってきた。
避けろ!避けるんだ!動けよ俺の身体!!
必死に避けようとするがどうしても身体が動かない。
「“アースボール”」
拳大の岩の塊がゴブリンを襲う。ゴブリンは俺への攻撃をやめてレナの放ったアースボールを避ける。しかし、避けた先にゴードンが絶え間なく攻撃を加える。
「カイ、大丈夫?待ってね今治すから。”プチヒール”」
傷口を暖かい光が覆う。
短剣がボロボロだった為か、傷はあまり深くはなく、レナの回復魔法によって傷が塞がる。
「おいカイ!お前ゴブリン相手になにしてんだよ!そんなんで英雄になれると思ってんのかよ!!」
ライエルはゴブリンの攻撃を避けながら叫ぶ。
その通りだ。こんなとこで、立ち止まっているわけにはいかない。
英雄になるため。この世界でお世話になった人に恩返しするため。もう2度と後悔しないため。
深呼吸をして、気持ちを入れ直す。
反撃だ。
まずはライエルに…
「うるせえ!そっちだって避けてばっかで腰引けてんじゃねえか!」
「今からなんだよ!」
強がってはいるが、1対1では厳しそうだ。
ゴードンも盾で敵の攻撃を防ぐので精一杯。
弱いな俺たちは。
ここからだ、ここから始めるんだ。
「行くぞ、英雄譚第一章 “初めての戦闘”開幕だ!」
「「「おう!」」」
「ゴードン!まだ耐えられるか?
「まかせてくれ!」」
頼もしくなったな、ゴードン
「よし!レナ隙を見て魔法で攻撃してくれ!ゴードンに当てるなよ」
「了解、あんた達と一緒にしないでよね!」
レナはちょっと気が強くなったかな?昔はあんなに可愛かったのに…
レナにギロっと睨まれた気がしたので思考を戻す。オンナノコッテコワイ
「俺とライエルで1体を相手取る。そっちは任せた!!」
「仕方ねえ!」
俺はライエルの真正面にいるゴブリンに近づき、後ろから斬りかかる。
ゴブリンはギリギリで反応してきた。ゴブリンの特徴的な耳を切り落とす。
「グギャアアアッ」
ゴブリンは断末魔のような悲鳴をあげるが俺たちは手を休めない。
1対1では勝てそうにないが、挟み込むことで相手に攻撃を許さない。
そうして戦って1分ほどだろうか、俺たちは、手を休めず、ダメージを与え続けた。
「逃すか!」
ボロボロになったゴブリンは逃げようとするが、ライエルが先回り、再び挟み込む。
「グギャ」
すると、ゴブリンは地面から何かを拾い投げつけた。
レナの髪の色とは違う、濁った紫の液体が飛び散る。
ゴブリンが投げたものは、先程俺が切り落とした自分の、ゴブリンの耳だった。
「こいつ、自分の耳を…」
ライエルはそう言い一瞬戸惑っていた。
俺はというと、チャンスだと思い、ゴブリンの持っている短剣の4倍の長さはあるであろう長剣で、後ろから斬りつける。
それを見たライエルも我に帰り、ゴブリンに攻撃を加える。
人間ならばとっくにくたばっているであろう傷を負ってもなおゴブリンは死なない。
それどころかまだ逃げようとするのだ。
必死に生きようとするゴブリンからすれば、執拗に追ってくる俺たちが悪者に見えていることだろう。
しかし、この魔物のほとんどいない街道で、また人が襲われては犠牲者が出るかもしれない。そう考え、俺たちはゴブリンを斬り続けた。
しばらくとするとピクリとも動かなくなった。
すぐにゴードンとレナの援護に向かおうと、そちらを見ると、あっちも丁度終わったところだった。
レナの”ファイヤボーイ”で驚いている隙にゴードンが剣と盾で顔面をぐちゃぐちゃにしたようだ。ゴードンの怪力にも驚いたが、頭を失ってもなお、指先をピクピクと動かしていたゴブリンの生命力に俺たちは一様に恐怖を覚えた。
もう指先以外動かすこともできないだろうが、一応トドメを刺す。
「ハァハァ、なんとか勝った。」
俺たちのなんとか初戦闘は勝利に終わった。
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