第4話

 目を覚ますと見慣れた天井があった。


「よかった、あなたカイが目を覚ましたわよ!」


「ああ、良かった。本当に良かった。」


 2人は目に涙を溜めながら抱きついてきた。こんな馬鹿な俺に。

 ルークが何度も何度も森には近づくなと言ってくれたのに、俺はチートだ納得できないだのと言って2人を巻き込んでしまった。俺は結局この世界をゲームか何かだと勘違いしていたのだと思う。


「カイ、俺は父親としてお前の事を叱らないといけない。」


「はい」


 当然だ、親の言いつけを守らない子供は叱られる。それも命に関わることとなると罰を受けることになるだろう。いや、今は前と違ってノアがいるし奴隷として売られるかもしれない。でも、そうなったとしても受け入れよう。これ以上ここにいたって迷惑をかけるだけだし。


「でも、叱らない。」


「へ?でも、だって、なんで?」


 俺は相当マヌケな顔をしていたと思う。


「というか、叱れないんだよ」


「どういうこと?」


「実は俺も昔勝手に森に入って助けられたことがあるんだよ」


 その後ルークは昔のことを話してくれた。


 ルークもこのツチノキ村で生まれ、小さい頃から冒険者を目指していたこと。それで、魔物を倒そうと森に入って、村長に助けられたこと。その後村長に弟子入りしたことを。


「そうだったんだ、じゃあ父さんは兄弟子なんだね」


「おうよ!って言っても俺は魔法の才能はなくて覚えられたのは”ファイヤーボール”だけだけどな」


「じゃああのときの魔法はやっぱり父さんの…ありがとう。父さん」


「そうだ、母さんにもお礼言っとくんだぞ!お前の傷を治したのは母さんだからな」


「そういえば、母さんも魔法を」


「ええ、内緒にしててごめんなさいねカイ。実は私たちは元々冒険者で一緒のパーティーだったの。ルークは前衛で剣士。私は後衛でヒーラーだったの」


「そうだったんだ、ありがとう母さん」


「いいのよ、無事でいてくれただけで本当に」


「それでカイ。まだ、冒険者にはなりたいか?今日よりもっと危険なことと隣り合わせの職業だ。本当に冒険者になりたいのか?」


 ルークが真剣な表情で聞いてきた。冒険者になりたいか、と。チートも何もない。一般人以下の俺では英雄にはなれないかもしれない。


「それでも…それでも俺は冒険者になりたいです。」


 俺は泣きそうになりながら必死で答えた。


「それでこそ俺の息子だ!」


 ルークは満面の笑みで笑い俺の背中をドンドンと叩いている。


「やめんか傷口が開くじゃろうが」


「げ、じじい」 「師匠!」


「馬鹿の息子は馬鹿じゃったようじゃな」

「おい誰が馬鹿だくそじじい!大体な俺のことはともかくカイのことまで…いいや、俺のことも馬鹿呼ばわりするんじゃねえ!」


「馬鹿だから馬鹿と言ったんじゃ」


「なにを、このボケかけじじいが!」


 俺は2人が喧嘩を始めたと思いあたふたしていたがアイリスは微笑ましそうに笑っていたので、おそらく2人はいつもこんな感じなんだろう。

 俺とライエルみたいなもんだなきっと。


「はあ、こんなことを言いにきたんじゃない。おい、カイ!」


 まさか勝手に森に入ったから破門とか言われたらどうしよう。


「ハイ!師匠なんでしょうか。あの、反省してるんでどうか破門だけ勘弁してくださ…」


「明日からこのバカと剣術の訓練もするんじゃ。」


「おい!勝手なこと言うんじゃねえよ!」


「お前さんが嫌なら別に強制はせんぞ」


「くっ!カイはそれでもいいのか?俺は剣士として中の下程度の力しかないぞ?」


「頼むよ父さん。今日みたいなのはもう嫌なんだ」


「よし、分かった明日から修行だ!」


「はい!」


「それじゃワシは帰るかの。明日から魔法の具現化の修行も始めるから遅れるんじゃないぞカイ」


「ハイ!師匠!よろしくお願いします」


 師匠はそう言って最後にルークに勝ち誇ったような顔をして帰っていった。


―――――――――――――――――――――――――

 それから俺たちの大修行が始まった。


 最初は俺とルーク2人だけだった剣術の修行に途中からライエルとガーゴンが参加した。修行を始めてから3年くらいしてからは、ほとんど模擬戦だった。ライエルとガーゴンとやる分にはいいんだけど。ルークとやると俺たち3人ともボロボロにされて地獄みたいだったよ。

 その間レナはアイリスに回復魔法を教わってるみたいだった。ノアも一緒なって遊んでいた。こっちは、どう見ても天国。俺も天国に混じりたくてちょっと教わったんだけどアイリス曰く”素質なし”らしくて発動する気も起きなかった。


 師匠の魔法の具現化の方も俺たち男3人はなんとか具現化できたものの、威力、具現化スピード共にレナに負けていた。師匠には「貴様らの魔法は実戦では通用せん」って言われちゃった。師匠のスパルタはルーク以上で「冒険者としての最低限の知識じゃ!」とかなんとか言って膨大な量の宿題を出された。

 ちなみに魔法には四大元素魔法である「風」「土」「水」「火」に加えて「光」「闇」「無属性」がある。

 男3人は結局四大元素魔法の初級をなんとか具現化することができた。レナは初級に関しては「光」も含めて免許皆伝なんだって。才能ってずるいよね。

 まあ、”ファイヤーボール”しか具現化できなかったルークにはすっげえ褒められたんだけどね。


 そんな忙しい日々を8年。なんとか乗り切った。

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