第120話 雨

結局、連絡をできないままで月日だけが過ぎていた。


とある大雪の日、お母さんと一緒にシュウジ君をお迎えに行き、お母さんが夕食を作っている間、駐車場に大きな雪だるまを作って遊んでいた。


以前、大地君が車を停めた場所のど真ん中に、大きな雪だるまを作っていると、シュウジ君が「大地兄ちゃんが見たらびっくりするだろうなぁ!」と、満面の笑みを浮かべながら話していた。


「大地兄ちゃんが来る前に溶けないといいけど」


「明日来るから大丈夫だよ!」


「明日来るの?」


「うん!明日、オレの誕生日だから!プレゼント持ってきてくれるんだ!!」


「そうなんだ… 何か欲しいものある? お姉ちゃんもプレゼントしてあげるよ」


そう言うと、シュウジ君はニコッと笑い「明日、お泊りして!!」と言ってきた。


突然のお願いにびっくりしたけど、「ごめん、明日はちょっと用事があるんだよねぇ…」と誤魔化すことしか出来なかった。


シュウジ君は「えー」と言った後、ふてくされたように頬を膨らませる。


膨らんだ頬を、両サイドから指で押し込むと、シュウジ君は口から異音を出し、ゲラゲラと笑っていた。


その後も雪だるまを作っていると、お母さんに呼ばれ、シュウジ君を玄関までお見送り。


お母さんは「食べて行けばいいのに…」と言っていたけど、「帰ってやることがあるのですいません」と言い、シュウジ君の家を後に。


帰り道におもちゃ屋さんへ寄り、プレゼントを買おうと思ったけど、何がいいのかさっぱりわからず、結局何も買わないで帰宅した。


数日後のお迎えの時、シュウジ君は「兄ちゃんがね、『雪だるまシュウジが作ったのか?』って聞かれたんだよ! でね、内緒の人と作った!って言っといた!!」と興奮しながら話し始めた。


「…内緒の人って誰?って聞かれなかった?」


「聞かれたよ!内緒の人ってずっと言ってたら、コショコショされた! でも、オレ言わなかったよ!」


「凄い、偉いねぇ」


そう言いながら頭を撫でると、シュウジ君は照れ臭そうに笑っていた。


そのまま話しながら歩いていると、シュウジ君が突然「また桜祭りの時に遊ぼうね!」と切り出してきた。


その言葉を聞いた途端、大地君の『美香に見せたい』と言う言葉が頭を過った。


「来れたら…ね」とだけ言うと、シュウジ君は「姉ちゃん働きすぎじゃない?大地兄ちゃんも言ってたよ?」と…


「そ… そうなんだ」と言った後、「誕生日プレゼント、何が良いか考えてくれた?」と話題を逸らすことしか出来なかった。


結局、話題を逸らしたまま帰宅し、家に着いた後はベッドに倒れこむ。


『桜祭りか… 誘ってみようかな…』


そう思い立ち、起き上がって携帯を握り締めたんだけど、どうしてもタップすることが出来ず、そのままベッドに倒れこんだ。


連絡が出来ないまま、またしても月日が過ぎてしまい、桜祭り前日は大雨。


『本当に明日には止むのかな?』と思いながら外を眺めていると、工場長が「こりゃ明日の桜まつりは中止だな」と切り出してきた。


「明日って花火上がるんですよね?」


「その予定だけど、明日も雨だと思うから中止だなぁ…」


「中止になったら、また4年後ですか?」


「いや、来年に持ち越しだよ。前は4年後だったんだけど、苦情が殺到して翌年に持ち越しになったらしいな」


「…そうなんですね」


『雨だったら翌年に持ち越しか…』


そう思いながら、雨が降りしきる外を眺めていた。


翌日になっても雨は止まず…


それどころか、昨日よりも勢いを増していて、自然と足取りを重くしていた。

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