第117話 安らぎ

大地君が寝付いた後、ダイニングにあるソファで横になり、仮眠を取っていた。


しばらく眠っていると、ポカっという高音と共に、軽い衝撃が頭に走り、目を開けると、必死に笑いをこらえるケイスケ君の前で、ユウゴ君が空のペットボトルを持って立っていた。


「なんでそこに寝てんの?」と聞かれ、「どこで寝ていいかわかんないし」と、軽くふてくされながら答えた。


「添い寝してやりゃいいじゃん」


「移ったら嫌だし」


「過労は移んねぇだろ?」


「咳してたし、あれは風邪だよ。副社長は引いたことないかもしんないけど」


「バカにしてんのか?」と言いながら、再度、空のペットボトルで頭を叩かれてしまった。


ケイスケ君はそれを見て、笑いながら朝食の準備をしていたので、ケイスケ君を手伝うことに。


少しすると、大地君が起きてきて、ユウゴ君の隣に座った後、大きく息を吐いた。


ユウゴ君が「なぁ、ピンチヒッター、戻せねぇの?」と聞くと、大地君は「交渉中」と、かすれた声でため息交じりに呟いていた。


ケイスケ君が「大地、熱は?」と聞くと、大地君は「37.8」とだけ。


「寝てろよ。飯、出来たら持っていくから」と、ケイスケ君が言うと、大地君は何かを言おうとして咳き込んでしまった。


大地君は咳き込みながら、ユウゴ君に連れられて寝室に戻り、少しだけホッとしながら朝食を作っていた。


話したいことや、言いたい事がたくさんあったはずなんだけど、本人を目の前にすると、言葉が浮かんでこず、何も言えなくなってしまい、黙っていることが精一杯だった。


朝食をケイスケ君が寝室に運んだあと、3人で食べていたんだけど、ケイスケ君は食べ終わるなり「後片付けお願いね」と言い、2人で1階へ。


仕方なく、後片付けをしていると、大地君が寝室から食器を運んできた。


「すいません…」と言いながら食器を受け取ると、大地君は「…ごめん」とかすれた声で言ってきた。


「…何がですか?」と聞くと、大地君は咳き込んでしまい言葉を発することが出来ない状態に。


「あとはやるので寝ててください」と言い、寝室に連れて行こうとすると、寝室に入ると同時に抱きしめられてしまった。


心臓が跳ね上がり、尋常じゃないほどに心拍数が上がってしまう。


けど、心のどこかで、安らぎを感じていた。


しばらく抱きしめられていると、大地君は膝から崩れ落ちるように座り込んでしまう。


「ベッド行きますよ?」と言うと、大地君は小さくクスっと笑い、軽く咳をしながらベッドに潜り込んだ後、「少しだけここに居て」と…


ベッドの下に座ると、大地君は私の髪をしばらく撫でた後、そのまま眠りについてしまった。


『シュウジ君の寝顔に似てるなぁ… 半分は血がつながってるからかな?』


そう思いながらゆっくりと立ち上がり、後片付けの続きを開始。


片づけを終えた後、1階に行き、作業を開始した。


お昼はピザを頼んでくれて、食べながら作業が出来たし、大地君へはケイスケ君がレトルトのおかゆを運んでくれたおかげで、作業に専念することが出来た。


経理の方が圧倒的に作業量が少なくて楽なんだけど、長年熟し続けていた作業のせいか、制作作業の方が圧倒的に落ち着いて作業ができる。


そんな風に思いながら、終電を少し過ぎた頃にすべての作業を終え、帰ろうとすると、ユウゴ君が「泊まっていけよ」と切り出してきた。


着替えが無いし、シャワーを浴びたい事を言うと、ケイスケ君が「俺、まだシラフだし送るよ」と切り出してくれて、ケイスケ君に送ってもらうことに。


話しながら車に揺られ、親会社の前で車を降りようとすると、ケイスケ君が「携帯の番号教えて」と言ってきた。


「移動になったときに、美香ちゃんの個人情報関係、全部親会社に渡っちゃって連絡先わかんないんだよね」と少し困った様子。


少し考えた後、「携帯忘れてきちゃったから、今度会った時に教えるね」と言い、ケイスケ君の運転する車を見送った。

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