第110話 報復

----------------------------------------------------------------


俺はあの日、委員会があって帰りが遅くなってた。


『公園行っても、もう誰もいないかな? あ、大地とユウゴが部活って言ってたっけ? まだいるかな?』


そう思いながら歩いていると、向かいから大地が走ってこちらへ向かってくる。


「あ、大地、どこ行くの…」


そう声をかけたけど、大地は立ち止まることなく、学校の方へ。


その少し後、ユウゴが大地を追いかけるように駆け出していた。


「ユウゴ、大地、どうかした?」


そう声をかけたんだけど、ユウゴも立ち止まることはなく、学校の方へ走っている。


「なんだ?あの二人…」


そう思いながら公園へ行くと、浩平ともう一人、浩平の友達が、大地とユウゴの鞄を足元に置き、話しながら笑っていた。


「なぁ、大地とユウゴ、なんかあったん?」


そう浩平に聞くと、二人は突然バカ笑いを始め、浩平は笑いながら話し始めた。


「いやさ、さっき1年の金髪と黒髪が来てさ、『野村ってやつから園田美香の噂聞いたんだけどマジかな?』って言っててさぁ、『知らね』って言ったんだけど、そいつら『試しに行ってみるか』とか言って、部室に行ったんだよ。その話したら大地とユウゴ、血相変えて走り出しちゃってさぁ」


「は?なんで1年を止めなかったんだよ?」


「だって、あの噂がマジだったらオイシイ思いできるじゃん」


浩平の言葉を聞き、血の気が引いていくのが分かった。


大地とユウゴの荷物を持ち、急いで学校の方へ向かう。


すると、美香が青い顔をしたまま、俯きながら歩いていた。


「美香ちゃん…」


そう声をかけても、美香は顔を上げることもなく、ボーっとしたまま歩いているだけ。


その少し後を、大地が歩いているのを見つけ、慌てて近づいた。


「大地、浩平から聞いたけど…」と言うと、「美香は大丈夫」としか言わず、荷物を取り上げていた。


大地はそれ以上話そうとはせず、ユウゴの事を聞いても、何が起きたかを聞いても話してくれなかった。


けど、赤く腫れた右手と、ワイシャツについている小さな血痕を見れば、何が起きたかを想像することは簡単だった。


大地と黙ったまま、俯いて歩いている美香の後を、一定の距離を保ちながら歩いているだけ。


電車の中でも、一定の距離を保ち、そのまま美香は振り返ることなく家へ入っていった。


家に入る美香を見届けた後、駅に向かう途中で大地は口を開いた。


「野村の連絡先わかるか?」


「野村はわかんないなぁ… 浩平ならわかるかも」


「あいつに野村を呼び出すよう言ってくれ」


「…何するつもりだよ?」


「いいからすぐ呼び出せ」


怒りと悲しみが入り混じったような表情をする大地。


こんな大地は今まで見たことがなかった。


すぐに浩平に電話をし、「野村に地元の公園に来るよう言ってくれ」と言うと、浩平はめんどくさそうに「はぁ?自分で連絡しろよ」と言い、メールで電話番号を送ってきた。


すぐに野村に連絡をすると、野村は「めんどくせぇよ」と言っていたんだけど、『美香が呼んでる』と言うと、「すぐ行く」と言い、いとも簡単に呼び出すことが出来た。


野村を呼び出した地元の公園に着くと、野村は落ち着かない様子で周囲をキョロキョロと見渡していた。


大地は野村の姿を見ると、一直線に野村に向かい、言葉を発する前に殴りつけていた。


野村の体は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。


「痛ぇなぁ!」の声に耳もくれず、無言で何発も殴るだけ。


すると公園の中にユウゴと浩平が姿を現した。


大地はユウゴの姿を見ると、手を止めたんだけど、ユウゴは「退学になっちった」と、笑いながら言っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る