第108話 隠密
上原さんにお礼を言った後、3人で近くのラーメン屋さんへ。
「隠れなきゃいけないんですか?」と美咲ちゃんに言われ、何も言わないで子会社を出て行ってしまったことを言うと、上原さんは「光ちゃんらしいやり方ねぇ…」とため息をついていた。
上原さんは、前社長の時から経理を任されていて、社長よりも勤続歴が長いことや、木村君兄弟は、小さいころから知っていることを教えてくれた。
「小さいころから仲が悪いんですか?」と聞くと、上原さんは「光ちゃんは優秀で天才肌でしょ?大ちゃんは普通なんだけど、光ちゃんが凄いできる子だから、昔っから裏で出涸らしって言われてたのよ。 そんな事があったらねぇ? しかも最近は、面倒なことは全部大ちゃんに押し付けてるし、仲良くしろって言う方が無理よねぇ」と、ため息交じりに言っていた。
『確かに…』と思いながら食事を取り終え、会社に戻ったんだけど、エレベーターで鉢合わせになるのが嫌だから、中の様子を見た後、急いで階段まで走り、階段を使って4階まで。
経理室に着いた時には、肩で息をしている状態だった。
翌日、出勤するときに美咲ちゃんに会ったんだけど、会社の前で立ち止まり、中の様子を窺っていた。
すると背後から「何してんの?」と言う男性の声。
あまりにもビックリして慌てて振り返ると、光輝社長が呆然としていた。
「あ、あ、おはようございます!」と言いながらお辞儀をすると、光輝社長は「もしかして大地?」と聞いてきた。
「え?あ、はい… まぁ…」と口ごもっていると、光輝社長はクスっと笑い「大丈夫だよ。 あいつが午前中に来るとしたら、大体9:30過ぎから12:30前後の間。それ以外はほとんど来ないよ」と教えてくれた。
お礼を言った後、エレベーターで経理室に行ったんだけど『ってことは、お昼は会う確率が高いのか… 弁当生活しようかな…』と思っていた。
午前中に作業をしていると、トイレから戻ってきた上原さんが急に小声で「美香ちゃん、隠れて!」と言ってきた。
慌てて物陰に隠れると、ドアがノックされた後、木村君の「上原さん、園田美香って経理部ですか?」と言う声が聞こえた。
「ここには居ないけど… どうかしたの?」
「兄貴に話しても埒が明かないから、無理矢理連れ帰ろうと思ってるんすよ。 事務でも経理でもないって事はどこっすかね?」
「どうだろう? 他部署の事って教えてくれないからわかんないのよねぇ」
「そうっすか。あざっす」
木村君の声の後に、ドアを閉める音が聞こえ、少しすると上原さんの「もういいわよ」と言う声が聞こえた。
ほっと息をついた後、ゆっくり立ち上がると、再度ドアが開き、慌ててしゃがみ込んだ。
すると、クスクスと笑う美咲ちゃんと上原さんの声が聞こえ、顔を上げると、ドアの前で山岸さんが笑っていた。
「楽しんでます?」と聞くと、上原さんは「反射神経良いのね。相当面白いわよ」と…
『また弄られてるし…』と思いながらデスクに着き、作業を再開した。
ある日の事、「大地君が来てる」との情報を得た後、少し緊張しながら作業をしていると、ドアがノックされ、慌てて身を隠した。
少しすると、営業部の石崎さんの声が聞こえ、ホッとしながらゆっくりと立ち上がると、石崎さんに「何してんの?」と…
笑ってごまかすことしか出来ず、自分のデスクに戻ろうとすると、またしてもドアがノックされ、慌てて身を隠した。
上原さんの「あら、大ちゃん」の声で息をひそめていると、木村君の「園田美香、本当にここじゃない?」と言う声。
心臓が痛いくらいに動く中、上原さんは「違うわよ」と言っていた。
「どこ行ってんだろうな… あ、美香に会ったらこれ渡しといてくれる?」
「なぁに?これ」
「新しい携帯番号とアドレス。携帯壊れて、データから何から何まで飛んじゃったんだ」
「バックアップ取ってなかったの?」
「うっかりしてた。 絶対に連絡するように言っといてくれる?」
「わかったわ。 秘書さんにどんな人か聞いて、見つけたら渡しておくわね」
「あざっす」
ドアが閉まる音の後も、しばらく息をひそめていると、上原さんは「良いわよ」と言った後、紙を渡してきた。
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