第100話 好きな人

木村君とシュウジ君がお風呂から出た後、シュウジ君が「姉ちゃんも入ってきなよ!」と言ってきた。


「どうしようかなぁ」と言いながら考えていると、お母さんに呼ばれてリビングへ。


するとお母さんが「サイズ合うかわからないけど」と、新品のシルクのパジャマを手渡してくれた。


『ジャージで十分です』なんてことは言えず、お礼を言った後、お風呂を借りることにした。


お風呂に入った後、パジャマを着ると、少し大きめ。


リビングに居たお母さんにお礼を言うと、お母さんは「大きくてごめんね。今度、もうワンサイズ小さいのを買っておくわね」と、優しく微笑みながら言ってくれた。


その後、少しだけ話をし、和室に入ると木村君とシュウジ君は、布団の上でプロレスごっこの真っ最中。


布団を綺麗に敷いたはずのに、目も当てられないくらいぐちゃぐちゃの状態になっていた。


木村君は私の姿を見て「ほら、姉ちゃん帰ってきたから終わりだぞ」と言い、布団を綺麗に敷きなおしていた。


布団を綺麗にした後、3人で歯磨きをし、お母さんにシュウジ君を引き渡してから、木村君と二人で和室に入った。


布団の上に座り、少しだけ話していると、いきなりふすまが開き、枕を持ったシュウジ君が「姉ちゃんと寝る!」と…


木村君が「ちゃんとママに言ったのか?」と聞くと、シュウジ君は「聞いたよ!姉ちゃん、一緒に寝ようぜ」と言い、私の乗っていた布団に枕を置き、布団に潜り込んでいた。


木村君は少しムスっとした様子で「姉ちゃんと大事な話するから、ママと寝ろよ」と言っていたんだけど、シュウジ君は一切聞き入れず、「姉ちゃん、寝るよ!」と言ってきた。


積極的すぎる言動に圧倒されてしまい、布団の中に入って上半身だけ起こしていると、シュウジ君がいきなり「俺ね、好きな人居るんだ!」と切り出してきた。


「そうなんだ。保育園の子?」と聞くと、シュウジ君は半分だけ布団で顔を隠し、私の鼻を人差し指で指してきた。


「え?本当に?」と聞くと、シュウジ君は布団の中でクスクス笑っていた。


「ホント? うそ? どっち?」と聞いても、シュウジ君はクスクス笑うだけ。


「言わないとくすぐっちゃうぞ?」と言うと、シュウジ君が「姉ちゃんは好きな人いるの?」と、いきなり聞いてきた。


真っ先に浮かんだのが『木村君』だったんだけど、そんなことを言う度胸もなく…


「内緒」と言いながら、人差し指で唇を抑えた。


シュウジ君は「言わないとコショコショするぞ」と言いながら、布団の中で私に近づいてくる。


「教えちゃおっかなぁ。 どうしよっかなぁ」と考えるふりをしていると、シュウジ君はいきなり「じゃあさ、俺と結婚しようよ」と、突拍子もないことを言い始めた。


思わず木村君と二人で「え?」とハモってしまったんだけど、シュウジ君は「いいでしょ?」と言ってきかなかった。


「シュウジ君が大人になったら、お姉ちゃんおばさんになってるよ?」と言うと、シュウジ君は嫌そうに「えー、じゃあいいや」と…


『この子は本当に理解してるのかしら』と思いながら話していると、木村君が「寝るぞー」と言いながら電気を消した。


その後もシュウジ君と話していたんだけど、シュウジ君は徐々に話す速度が遅くなり、質問に対しても返さなくなっていた。


『寝たかな?』と思いながら上半身を少しだけ起こすと、バチっと目を開け「どこ行くの?」と…


「ちょっとおトイレ行ってくるね」と言うと、シュウジ君は天井を見たまま「早くね」と言ってきた。


トイレから戻ると、シュウジ君の瞼はゆっくりと閉じ、寝息を立て始める。


また上半身を起こそうとすると、目がバチっと開き「どこ行くの?」と…


「枕動かしただけだよ」と言うと、瞼はゆっくりと閉じ、寝息を立て始めていた。


木村君はその姿を見ながら「すげーセンサーだな」と、小声で言いながら笑っていた。

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