第86話 救い

先生と監督の提案を引き受けた後、先生が「OPなんだけど、前に4人で作ったでしょ?あれの曲とキャラを差し替えるだけで、動きはそのままでって思ってるんだけどどうかな?俺、あのOP気に入っちゃって、何度も見てるんだよね」と、笑っていた。


すると木村君が「美香、どうだろ?出来そうか?」と聞いてきたので「設定図と音源があればいけます」と返答すると、監督が「そう言われると思って勇樹に頼んできた」と言い、USBを手渡してきた。


「流石。なんでもお見通しですね。これは個人的なお手伝いとして引き受けますから、料金に入れないでくださいね」と言うと、木村君は「わかってる」と笑顔で答え、先生は嬉しそうに何度もお礼を言っていた。


その後も打ち合わせを続け、監督と先生を見送った後、少し話してから帰宅。


山根さんのことでかなり凹んでいたけど、先生と監督のおかげでやる気が戻ってきた気がした。


その日以降、ケイスケ君はユウゴ君に動画制作を教わり、休憩時間が被ったときは私に聞いてくるように。


定時後も、ユウゴ君は事務所でケイスケ君に教え、木村君と二人で素材を作っていた。


1週間ほど経つと、OPの差し替え作業が終わったんだけど、ケイスケ君の勉強はなかなか終わらず、先生から原稿が来るばかり。


結局、ユウゴ君が「待たせるのも悪いから、ケイスケが指示出せ。俺らはそれに従おう」と言い、定時後にはケイスケ君の指示のもと、モーションコミック作成が始まった。


1話分の作成が終わると同時に、OPと1話を先生に送ったんだけど、先生は翌日、OPだけをSNSにアップロードしていた。


OPの最後には【special Thanks】の下に監督の名前と私たち一人一人の名前。


一人一人の名前と言っても、フルネームではなく『Day,Yu,Key,Mik』と言った暗号のようにも取れる書き方だった。


わかる人だけにわかるようにしたんだろうけど、SNSを見た一部のファンからは『1部OPメンバー集結じゃね?』と言う意見や、1部OPのクレジットを上げる人もいて、アップロードから間もなく、ものすごいバズり方を見せていた。


一方で加速したのが白鳳とホワイトリリィへの批判。


まだまだ連載が続くと思っていたのに、突然終わってしまったから、ファンからの怒りを買うのも当然と言えば当然だし、あのアニメの酷さを見れば納得するんだけど、『炎上商法ってこう言うことだよね?これも山根さんの計算のうち?』と、素朴な疑問が浮かんでいた。


先生のSNSがバズった翌日、朝一に会社へ電話があり、木村君は不機嫌そうに対応していた。


電話を切った後、「親会社ですか?」と聞いてみると「ホワイトリリィの山根。早急に話したいことがあるってさ。断ったけどな」とため息交じりに言っていた。


するとユウゴ君が「バズってるのに肖ろうとしてんじゃね?白鳳批判もすごいけど、白百合はもっとすげーし、出版社からテレビ局から、クレーム量が半端じゃないらしいしな。よかったなぁ。俺らの会社名出さなくて」と、ホッとしたような表情を浮かべていた。


その日の午後、会社のインターホンが鳴り、あゆみちゃんが対応していたんだけど、ドアが開くと同時にあゆみちゃんは押し退けられ、怒りに満ちた表情の山根さんが私に向かって歩いてきた。


木村君が私の前に立ち「お断りしたはずですが」と言ったんだけど、山根さんは木村君のことはお構いなしに、私に向かって「帰るわよ」とだけ。


『行きたくない… 帰りたくない…』そう思うと、木村君のジャケットを握りしめていた。


山根さんはそんなことをお構いなしに「早く準備なさい。白鳳に帰るわよ」とだけ。


木村君が「いきなり来て失礼すぎませんか?」と聞いていたんだけど、山根さんは私を睨むばかりで、木村君に返答はしない。


私がここで『嫌です』と言えば済む話なんだけど、声を出すことすらできず、木村君にしがみついていることしか出来なかった。


しばらく黙っていると、山根さんが「もたもたしないで帰るわよ」と吐き捨てるように言い、木村君は「この事、親会社の白鳳はご存じなのですか?それとも、ホワイトリリィが勝手に行動しているだけですか?」と冷静に聞いていた。


「知ってるに決まってるでしょ!!」


「そうですか。では、無許可で来社し、従業員を脅すように連れて行こうとする言動は、白鳳の指示なのか、そして御社はそのような教育をされているのか、その間、作業が滞ってしまった責任を取っていただけるのか、白鳳に聞いてみます。良いですね?」


木村君がハッキリと言いきると、山根さんは木村君を睨みつけた後、踵を返し、いらだった様子で事務所を後にしていた。

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