第85話 転機
アニメ放送が中止した週明け、会社に行くと、ケイスケ君が事務所に飛び込んできた。
あまりにも驚き「ど、どうしたんですか?」と聞くと、ケイスケ君は「見てよこれ!」と言いながら少年誌を開いて見せてくる。
そこには最近休止になったばかりの漫画が描いてあったんだけど、なんともあっけない終わり方をしていた。
「あんなアニメ作るから、先生描く気無くなったんだよ!放送だって中止でしょ!?絶対に白鳳のせいだよ!」と、ケイスケ君は興奮気味で話していた。
ケイスケ君の言葉に、納得しかできないでいると、休憩室から木村君とユウゴ君が出てきた。
あゆみちゃんが出勤して1日が始まると、すぐに電話が鳴り、木村君が対応していた。
何も気にせず作業をしていると、木村君が電話を切り「ユウゴ、明日来客あるからスーツで頼む」と伝え、ユウゴ君は「うぃ~」と気のない返事。
その後も作業を続けていると、昼過ぎに浩平君が事務所にやってきた。
木村君は浩平君の姿を見るなり「もう関係者じゃないんだから、アポなしで来るな」と注意し、浩平君は「真由子ちゃんに伝えた」と反論するばかり。
結局、用件は一切話さないまま、木村君が追い返していたんだけど、木村君は疲労困憊と言う感じで大きく息を吐いていた。
『毎日来る気じゃないよね…』と、嫌な予感がしたんだけど、『来ても木村君が追い返してくれるし、大丈夫。大丈夫』と、自分に言い聞かせていた。
翌日も、浩平君は午前中に来て、用件を言わないまま木村君に追い返されていた。
「毎日来る気じゃないですよね?」とケイスケ君に聞いてみると、ケイスケ君は「かもよ?あいつしつこいから」と、ため息交じりに言っていた。
その日の午後、来客の予定時間になったんだけど、来客はなく、予定時間を少し過ぎた頃に電話が鳴り、木村君が対応していた。
木村君は電話を切った後、ユウゴ君に「急用があって抜け出せないらしいけど、どうしても今日中に話をまとめたいから、定時後来るって」と言い、ユウゴ君はネクタイを外しながら「うぃ~」と気のない返事をしていた。
定時後、少しだけ残業をしていると、事務所のインターホンが鳴り、監督と先生が現れた。
挨拶をした後、全員が応接室に呼ばれたんだけど、そこで先生が話したのが「出版社と契約満了になった」との事。
連載終了と同時に、契約も満了になったそうで「2部の制作を完全に白鳳任せにするって話が出た時から、連載終了の話をしてきた。一部の人達は文句言ってたけど、知ってる人は仕方ないって感じだったよ」と、先生は悲しそうに言っていた。
「契約も満了になったし、今はフリーなんだ」と先生は言い、鞄から手書きの原稿を差し出してきた。
「今、この漫画を描いてるんだよね。ただ、この漫画はどこの出版社からも出さないで、自主出版にしようと思ってるんだ。これをネット配信しようと思ってるんだけど、その制作をみんなにお願いしたいんだ。監督が脚本を書いてくれるって言うし、知り合いのバンドがOPテーマ曲作ってくれるって言うし、月1配信でどうだろう?ただ、声優を集めることが出来ないし、予算も出せないから、モーションコミックにしたらどうかなって思ってるんだ。お願いできるかな?」
木村君は先生の言葉に少しだけ考えた後「わかりました。お世話になったご恩もありますし、全面的に協力させていただきます。担当はケイスケでいいですか?」と提案し、ケイスケ君は驚きの声を上げていた。
「ケイスケには動画作成をこれから覚えてもらいます。そのため、時間がかかると思いますが、新人が担当になるということで、破格で引き受けさせていただきます。これでいかがでしょうか?」
先生と監督は目を輝かせ「お願いします!」と二つ返事をし、ケイスケ君は「全力で頑張ります!!」と気合十分と言った感じだった。
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