第80話 騙し
木村君から『ここに居て』と言われたまでは良いものの、どうしていいかわからずにいた。
気持ちが落ち着いたせいか、何かをしたくて仕方がない。
『どうしよう… 帰ろうかな…』と思っていると、視界に飛び込んできたのは洗濯物の山。
『早退になっちゃったし、やることないし… いっぱい迷惑かけちゃったし…』と思い、洗濯をすることに。
けど、洗濯物と洗剤を入れてしまえば、後はやることがない。
『あゆみちゃんが潔癖って言ってたけど、ホント小奇麗にしてるなぁ。 掃除は必要なさそうだな』と少し関心していた。
辺りを見回していると、時計が視界に入り、もうすぐお昼と言うことに気が付いき、私服に着替えた後、お昼を作ることにした。
事務所の出入り口の横にある、住居用の扉から外に出て、スーパーに行って2階の家に戻る。
キッチンに立ち、和風パスタを作っていると、木村君が姿を現した。
「あ、お疲れ様です。もうすぐ出来るので待っててください」と言うと、木村君はキョトーンとした様子でソファに座る。
料理を並べているときに「どうした?」と聞かれてしまった。
「ここに居ろって言われたんですけど、落ち着いたら暇になったので、お昼作ってました。ちゃんと片付けてから帰ります」と言うと、木村君は一口食べて「ウマっ」と。
思わず「良かったぁ」と言葉が零れた後、洗濯機が終わりの合図を知らせてきた。
「洗濯もしてくれてる?」
「はい。勝手にすいません」
「いや、助かる。マジサンキュ」
洗濯物を干す場所を聞き、食事が終わりそうなタイミングでドリップコーヒーを入れる。
食事が終わると同時にコーヒーを出すと、木村君はコーヒーを一口飲み、ソファにもたれかかった後、「なんかすんげー癒された」と笑いかけてきた。
「全部終わったら帰りますね」と言うと、木村君は「晩飯は?」と…
「調子に乗っちゃダメですよ?」と言い、洗濯物を干しに行こうとすると、木村君は「ちょっと座ってくれる? 前職の事で聞きたいことあるんだけど良い?」と聞いてきたので、黙ってうなずき、木村君の指示で隣に座った。
「浩平が言ってた事。全然腑に落ちないんだけど、営業1年目で俺より年収が上ってどういうこと?」
「営業部の場合、インセンティブがあるから、多く契約を取ればその分給料が増えるんです。 社長の年収が分からないので何とも言えませんが、白鳳って結構特殊で、部署の数字が多ければ多いほど序列が上がっていくし、インセンティブの割合も多くなるんです。 新人はみんな1から始まって、研修が終わったら2部に行くんですけど、成果が出ない人は1部に落とされるんです。 裏で『落ちこぼれ集団』って呼ばれてます」
「じゃあホワイトリリィも同じスタイルって事?」
「おそらくそうかと… 来年親会社に行くって仰ってましたけど、子会社から親会社に来た人は一人も見たことありませんし、親会社から子会社に行く人もいないんです。 …私みたく切り捨てられちゃうから」
「なるほどね… あいつ騙されてるんだ」
「多分そうかと思います。 偶然白鳳の人に会ったって仰ってましたけど、あれも多分嘘かと思います。 もし本当だったら、直接親会社に雇われるはずなのに、なんで一度、子会社に雇われるのかがわかんないですし、待遇も良くないですよ?」
「流石、元白鳳だけあって情報通だな。でも、これではっきりしたわ。美香は絶対渡さないから安心してな」
木村君はそういうと、私の頭を撫で、大きく伸びをした後に立ち上がった。
玄関を出るときに「晩飯、楽しみにしてる。ハンバーグが良いかなぁ」と言った後、そっと触れるだけのキスをし「行ってくるな」と言った後、玄関を出て行った。
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