第54話 嘘

あゆみちゃんとコンビニに言った翌日。


真由子ちゃんが出勤の日だったせいか、浩平君は朝から事務所に。


この日は外出することもなく、1日中、事務作業をし、定時を迎えると同時に真由子ちゃんと事務所を後にしていた。


少しだけ残業をした後、珍しく帰宅時間が一致した、ケイスケ君と話しながら歩いているときに、「お姉さん、入院されたって伺ったんですが、大丈夫ですか?」と聞いてみた。


ケイスケ君は「え?入院?ピンピンしてるよ?」と平然と答えていた。


聞いた話と全く違っていたので、頭の中が少し混乱してしまい、「あれ?違うんですか?」と聞くと、「それ、どこからの情報?」と聞き返された。


「浩平さんが…」と言いかけると、ケイスケ君は「戻るよ」と言い、私の腕を引っ張った。


『くれぐれも大地とユウゴには内緒にしてね!!』の言葉を思い出し、「ちょっと待って!」と声をかけたんだけど、ケイスケ君は止まってくれない。


何度腕を振り払っても、すぐに掴まれてしまい、逃げることができずにいた。


成す術がなく事務所に戻ってしまい、休憩室の中へ。


休憩室の中に入ると、木村君とユウゴ君がキョトーンとしていた。


木村君が「どうした?」と聞いてきたんだけど、答えるわけにもいかない。


するとケイスケ君が「『うちの姉ちゃんが入院してる』って浩平から聞いたらしい」と…


それを聞いた木村君が「どういった経緯でそれを聞いた?」と聞いてきたけど、何も答えられず、俯いているだけだった。


しばらく黙ったままでいると、ユウゴ君がため息をつき「口止めされてんの?」と。


答えることもできず、ずっと黙ったままでいると、ユウゴ君が「言うまで帰さねぇぞ?」と、恐ろしいことを言い始めた。


沈黙に耐えかねたように、ケイスケ君が「これは美香ちゃんだけの問題じゃないんだよ?」と言ってきたんだけど、何も答えられずにいた。


すると、木村君がすっと立ち上がり、「鍵、閉めて行ってくれ」とユウゴ君に伝え、木村君は私の腕をつかんで2階へ。


2階の部屋に入り、ソファに座らされると、木村君は隣に座り「ユウゴに聞かれたらまずい事?」と、聞いてきた。


言葉に迷っていると、木村君はなぜかネクタイを外し、「言わないとお仕置きするよ?」と、耳元で囁いてきた。


思わず「嫌です!」と答え、離れたんだけど、木村君は「じゃあ言う?」と聞いてくる。


「どうだっけなぁ」と、とぼけた振りをしていると、またしても近づいてきて、耳元で「話して」と、色気たっぷりの声で囁いてきた。


『こんな声、聞いたことない!』と思い、慌てて木村君から離れると、木村君は少し楽しそうに近づいてくる。


「楽しんでます?」


「ちょっとな。浩平に何吹き込まれた?」


「いや、あの… あ、ケイスケさんのお姉さんが入院してて、大丈夫かねぇって言ってただけです!」


「嘘だろ?」


「…バレました?」と言うと、木村君は突然私に覆いかぶさり、耳元で「本当の事言って」と、色っぽい声で囁く。


心臓が痛いぐらいに動き出しても、必死になって口を閉ざしていた。


覆いかぶされたままの状態で、頑なに口を閉ざしていると、木村君は上半身を起こし「いい加減に言わないと、限界なんだけど…」と。


「限界?」と聞くと、木村君は「あ、いや… どうしても言わない気?」とはぐらかす。


それでも黙ったままでいると、木村君は私の体を起こし「相変わらず頑固」と言いながら長いキスをしてきた。


長いキスの途中で木村君の携帯が鳴り、木村君は「んだよ」と言いながら電話に出る。


短い会話の後、木村君は「ユウゴがめんどくさいから連れてきたって。下行こう」と言い、1階に連れていかれてしまった。

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