第55話 尋問

木村君と二人で1階に行くと、木村君はまっすぐに応接室へ。


『えー… 応接室なの? やだなぁ…』と思い、つい足を止めていると、木村君はUターンをした後「大丈夫。俺が守る」と言い、私の腰に手を当て、応接室に入った。


押し込まれるように応接室に入ると、浩平君は膝の上に足首を乗せるように足を組み、だるそうにそっぽを向いていた。


『この場所に居たくない…』


そう思っていても、木村君に半ば無理矢理座らされてしまい、動けないままでいた。


木村君がふーっと大きく息を吐き、「一昨日どこにいた?」と聞くと、浩平君はそっぽを向いたまま「知らねぇよ」と、めんどくさそうに言う。


「昨日は?」と木村君が言うと、浩平君は「知らねぇっつってんだろ!?」と突然怒り始めた。


木村君が冷静に「直行直帰でどこにいたかも覚えてないのか?」と聞くと、「んなもんいちいち覚えてらんねぇだろ? つーかなんでそいつが居るんだよ?」と、浩平君は顎で私を差してきた。


「正社員なんだからいても問題はねぇだろ」と、木村君がため息交じりに言うと、浩平君は舌打ちをするだけだった。


するとユウゴ君が「昨日の定時後、コンビニの前で美香の事、張ってたろ?」と言うと、浩平君は突然立ち上がり「何チクってんだてめぇは!!」と怒鳴りつけてきた。


思わずビクッとしてしまったけど、ユウゴ君は冷静に「チクる?あゆみに聞いただけだけど、張ってたのか?」と聞くと、浩平君は黙ったまま座っていた。


ユウゴ君が「何か頼んでたみたいだけど何頼んだ?」と聞いても何も言わないし、「何がダメだったんだ?」と言っても何も言わない。


しばらくの沈黙の後、木村君がケイスケ君を呼ぶと、ケイスケ君は1枚の種類を木村君に手渡した。


「ここのところ直行直帰が多いけど何してる?」と聞くと「打ち合わせ」とだけ。


「打ち合わせねぇ… 昨日の出勤簿に書かれてるサンライズって会社、一昨日も打ち合わせしたんだけど、昨日行ったんだよな? 何の話した?」


「そ、それは… 連絡事項が抜けてたから呼ばれたんだよ」


「それで1日打ち合わせしてたのか?」


「そうだよ。悪いかよ」


「昨日電話したら来てないって言われたけど、どこのサンライズに行ったんだよ?」


木村君のがそう言いながら、出勤簿を浩平君が見やすいようにテーブルに置くと、浩平君は黙り込んだ。


しばらくの沈黙の後、木村君はため息をつき「昨日、親父さんに会ったぞ」と…


思わず顔を上げてしまうと、木村君が「親父が入院してるから金貸してくれって美香に言った。違うか?」と。


浩平君は「違うって。んなわけないじゃん!何言ってるんだよ」と言っていたんだけど、木村君は一切聞き入れず、「減給処分を受けて、大高に貢ぐ金がなくなったんだろ?」と聞いていた。


浩平君は「ちげぇって!」と言ってた後、「本当はおふくろが…」と言いかけ、言葉を止めていた。


木村君は大きく息を吐いた後、「もういい。二度と来るな」と言い、浩平君は木村君に縋りつくように「そんなこと言うなって。マジで!俺と大地の仲じゃんよぉ」と下手に出ていた。


けど、木村君は「お前と俺の仲?笑わせんな。早く荷物まとめろ」と。


何度か同じやり取りを繰り返した後、浩平君はふてくされながら応接室を後にしていた。


「…疲れた」と木村君が小声で言うと、爪を弄っていたユウゴ君が「俺も。腹減った」と…


「申し訳ありませんでした」と言いながらお辞儀をすると、木村君は「いや、いいよ。あいつのサボり癖は目に余ってたから、ちょうど良かった」と、ため息交じりに言っていた。


「あいつ、友達関係に金借りまくって、誰からも相手にされなくなったんだろうな。女できるといつもそうじゃん。良い格好したくって、おごりまくって、貢ぎまくってさぁホント懲りねぇよなぁ」とケイスケ君が言うと、ユウゴ君が「大地は美香に貢いでんの?」と…


「は?」と言うのと同時に、木村君は「貢いでねぇよ。さて、飯行くか!ユウゴのおごりで」と言いニコッと笑いかけてきた。


するとユウゴ君は「俺今日300円しかないよ?美香が貸してくれるなら行く。返さないけどな」と、副社長にあるまじきお言葉。


「それっておごれって事ですか?」と聞くと「正解」と言い、次々に応接室を後にした。




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