第27話 忘れ物

終電を逃してしまった日、木村君から「泊まっていく?」と聞かれたけど、「タクシーで帰れる範囲内なので大丈夫です」と答えた。


ユウゴ君は本気で仕事をしてしまい、疲労困憊になってしまったせいか、休憩室のソファに倒れこみ、動くことはなかった。


タクシーで実家に帰り、自分の部屋に入った直後、そのままの状態でベッドへ倒れこむ。


『なんなんだよ急に絡んできて… ホントムカつく…』


ムカつくと思っても、疲労困憊で怒る気力もなく、気が付いたらそのまま眠っていた。



とある日の金曜、目が覚めると7:00過ぎ。


普段は6時に起きているのに、1時間以上の寝坊をしてしまった。


急いで出社準備をし、駅まで駆け出す。


『遅刻する』ことよりも、『何か言われるんじゃないか?』と言う不安のほうが大きくなっていた。


電車から降りた後も、会社まで走り、着いた時には息が切れていた。


すると木村君が驚いた様子で「おはよう?遅刻なんて珍しいね」と声をかけてくれた。


「すいません!遅刻しました!」と言うと、ユウゴ君がニヤッと笑い「たるんでるんじゃないのかぁ?」と…。


嫌な予感しかしなかったので、真っすぐに更衣室へ行き、制服に着替え、荷物をロッカーに投げ込んだ。


1日中、ユウゴ君に「たるんでる」と言われ、反省し、反論し、勝負を挑まれ、心身ともに疲労困憊状態。


定時になると同時に、あゆみちゃんよりも先に更衣室へ行き、すぐに会社を出ようとした。が、ユウゴ君がそれを見逃すわけもなく…


「遅刻して定時に帰るって、社会人としてどうなのかなぁ? そんなことしてたら、うちの会社、潰れちゃうよぉ?」と、ニヤッと笑いながら言ってきた。


「この前、風が吹けば倒れる会社って、仰ってましたよね?」


「ちょっと大地聞いたか?自分の会社ディスるってどうなの?」


「私じゃなくて副社長が仰ってたんじゃないですか!」


「『言ってたんじゃないですか』だろ!!硬すぎるって言ってんの!わっかんねぇやつだなぁ!」


「馬鹿には付き合いきれません。失礼します」


「誰が馬鹿だ!」と言うユウゴ君の喚き声に耳も傾けず、ムカつきながら会社を出て、真っすぐ駅に向かった。


『ムカつく。ムカつく。なんなの急に。ホントむかつく』


そう思いながら電車に揺られ、改札を抜けると、静香にばったりと遭遇。


静香は興奮したように「久しぶりじゃん!ちょっとふっくらした?ご飯行こう!」と誘ってくれて、そのまま食事に行くことにした。


食事の間、話題の中心は会社の事ばかり。


ユウゴ君に絡まれている話をすると、静香は『それはうざい。私なら殴る』と、拳を掲げていた。


懐かしい友人との食事を終えた後、静香が「今何時だろう?」と聞いてきた。けど、鞄に入っているはずの携帯がない。


思い出すように「あれ?今朝、寝坊して、急いで鞄に入れて、遅刻して、ロッカーに鞄投げて…」と言いかけると、「ロッカーの中なんじゃない?知らない間に出てることあるじゃん」と静香が言ってきた。


「あ、そうかも…」と言っても、明日、明後日は会社が休み。


取りに行くとしたら今しかないんだけど、携帯がないと連絡すらできない。


「一か八かで行ってみるしかないんじゃない?」と言われ、そうせざるを得なかった。


静香と駅で別れ、そのまま会社にUターン。


携帯があったとしても、終電には間に合わない。


『またタクシーですか… 痛い出費だなぁ…』と思いながら会社に着き、ドアに手をかけると、鍵が開いていた。

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