第26話 口喧嘩

ユウゴ君に絡まれた日から、今までのことが嘘のように、毎日絡まれ続けていた。


木村君から作業を頼まれ「承知しました」と言うだけで、休憩中には「硬すぎるんだよ!この忍者!」と言われてしまう。


電話の時は何も言われないんだけど、ちょっとした時に丁寧な言葉遣いをすると、後々「硬すぎる!」とグチグチ言われてしまうので、逃げるように帰る日々。


最初は言われっぱなしだったけど、最近では反論するようになっていた。


そんなある日の事、ユウゴ君に仕事の相談をされ、ついつい「それで差し支えないかと思います」と言ったところ、「硬い!」と始まってしまった。


休憩時間中に言われるのは慣れてるけど、業務中に言われるのは初めてで、カチンと来てしまった。


「業務中なんだからいいでしょ?」


「良くないから言ってんだろ?大体なんだよその『それで差し支えない』ってよ。『それでいいと思います』で良いじゃねぇかよ」


「遊びじゃないんだから、丁寧な言葉遣いをするのは常識でしょ?」


「だから硬すぎるっつってんの!ここに来てから3か月以上経ってんだろ?もっと軽くなれよ!」


「だから遊びじゃないって言ってんでしょ!?」


「どこぞの大企業とは違うって言ってんだよ!風が吹けば倒れるような会社で、そんな言葉使いするんじゃねぇって言ってんの!大体お前はなぁ~~~~」


間に入り、止めようとしている木村君を余所に、説教を続けるユウゴ君は、次第に親会社の文句を言い始めていた。


『この人何言ってんの?自分の会社ディスってんの?親会社の文句を私に言ってどうすんのよ』


そう思いながら説教にも我慢をしてたけど、「いつまでもいい子ぶってんじゃねぇよ!」の一言でブチっと着てしまった。


「むかつく!ホントむかつく!」


「ああ、ムカつけほら。いい子ぶってるだけでなんもできねぇ癖によぉ。どうせ俺に勝つことなんかできねぇんだろ?」


「勝てるもん。仕事の速さなら絶対勝てる」


「んだとコラ。上等だよ。勝負してやんよ」


そう言いながらユウゴ君は椅子にドカッと座り、新しいファイルに手を伸ばしていた。


ムカつきながら自分の席に着き、同じようにファイルに手を伸ばす。


「ズルすんじゃねぇぞ」


「わかってます」


私の言葉を合図にスタートを切り、二人して黙々と作業をする。


さっきまで怒鳴り合っていたはずなのに、急に静寂が訪れ、パソコンを操作する音だけが流れていた。


『負けない。こんな人に絶対負けない』


二人とも闘争心に火がついてしまい、黙々と作業を続けていた。


2時間ほどして、私の作業が終わると、ユウゴ君は「え?嘘だろ?」と言ってきた。


「本当です。クオリティは落としてません」そう言い切ると、ユウゴ君は木村君を呼び、私が作ったばかりの動画を木村君がチェックする。


木村君は「本当に早いなぁ。感心するわ」と言うと、ユウゴ君はさっさと動画を完成させ「もう一回勝負じゃぁ!」と…。


『あ、忘れてた。この人、バカだったんだ…』


そう思っても時すでに遅し。


何度も勝負を挑まれては勝ち、挑まれては勝ち…


結局、終電を逃してしまった。

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