第21話 助け
酔いつぶれてしまったかおりさんを見て『懐かしい』と思っていた。
『初対面の時も酔いつぶれちゃって介抱したし、2回目の時も酔いつぶれて、かおりさんの家に泊まったんだっけ。 あれ? いつも酔いつぶれてないか…』
素朴な疑問を打ち消すように、会計を済ませ、かおりさんを担ごうとしたが、かおりさんの体はいうことを聞いてくれず、そのまま倒れこんでしまった。
「痛いぃ…」と言いながら眠るかおりさんに懐かしさが込み上げてくる。
「ほら。 ちゃんとしてくださいよ」と言うと、かおりさんは「ん~…」と言うだけ。
店員さんの助けもあり、外に出ることができたんだけど、問題はここから。
「かおりさん、今日はどちらにお泊りですか?」
「ん?ん~… そこ」
「そこってどこですか?」
「そこのビジネスホテル」
あたりを見渡してみると、3件のビジネスホテルがあった。
「3件ありますけど名前はわかりますか?」と聞くと、「なんか…」としか答えない。
こうなったら、建物の色や雰囲気、入口に植物があったかどうか、ありとあらゆるヒントをもとに探し当てるしかない。
「どんなホテルでしたか?」と聞くと、「んーとねぇ、色が青っぽくて、入口に緑があって、駅から近くて… 安い!にゃはは~」と笑い始めた。
あたりを見ると、青いホテルなんて一つもない。
仕方なく、一番近いホテルに行くと、「予約はされてないようですね…」との切ないお言葉。
何度か転びながら、少し離れたホテルに行っても該当なし。
一番遠いホテルに行き、やっとの思いで探し当てることができた。
従業員の方に手伝ってもらい、液状に化したかおりさんを部屋まで運ぶ。
かおりさんをベットに寝かせた後、従業員さんにお礼を言うと、どっと疲れが湧いてきてしまい、その場に蹲ってしまった。
『さぁて、もう一仕事!』
自分に言い聞かせながらかおりさんの着ていたジャケットを脱がすと、かおりさんはムクっと起き上がり「気持ち悪い…」と…。
「え?ちょっと待って!」と言い、慌ててトイレに連れて行こうとすると、間一髪の状態でギリギリアウト。
「一番最悪なパターンですよ… ホントマジで…」と思わず声に出してしまったが、かおりさんは起きる気配がなかった。
その後、ワイシャツを脱がせて洗面所で洗ったり、掃除をしたり、水を飲ませたり…
「時給をください」と言いたくなるくらいの介抱をしていた。
一通りの介抱を終え、枕元にあったメモ帳にメッセージを書いた後、部屋を出る。
フロントに行くと、さっき手伝ってくれた従業員さんが、声をかけてきてくれた。
「先ほどはありがとうございます」と言った後、ふと時計を見ると午前1時。
『終電…』と思った時には、すでに遅すぎる状態だった。
「あの、空き部屋ってありますか?」と聞くと、「大変申し訳ありません。本日満室でして…」との切ないお言葉。
「そうですか。じゃあいいです。ありがとうございます」と言った後、ホテルを出たは良いんだけど、今晩どうするか…
正直言うとクタクタで今すぐにでも横になりたい。
『あ、そういえばお金ないんじゃ…』と思い、財布を見ると、残金2000円。
『あの和食屋さん、高かったもんなぁ…』と思いながらコンビニに行き、お金をおろそうとしてもおろせず、ATMをよく見ると『メンテナンス中』の文字。
『どうしよう… タクシーで実家行く? 絶対もう寝てるし、あの人たち起きないよなぁ… タクシー代、建て替えてくれないだろうな… あ!クレジットカード!』と思い、もう一度財布を見ると、有効期限が切れていた。
『あ、この前新しいカード着てたの、交換し忘れてた…』
絶望的な状態に成す術がなく、どうしたらいいかわからず、ふと携帯を見た時に、木村君の『これ、俺んちの鍵。 好きに使って』と言う言葉が頭をよぎった。
すぐに木村君に電話をし、『起きてますように…』と、何度も祈りながらコール音を聞く。
すると「おう、どうした?」と、普段通りの声が聞こえてきたんだけど、声を聞いた途端、涙が零れ、情けない声が出てしまった。
「社長… たすけてくださぁい…」
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