第16話 相談
アパートに戻った後、ベッドで横になり、ボーっと天井を眺めていた。
『どうして木村君のこと思い出せないんだろう…』
木村君に関することを思い出そうとすると、頭痛がして考えられなくなる。
でも、時々、懐かしさを感じることがあるし、本当にうっすらと『言われた』と言う記憶がある。
ボーっとしたまま天井を見ていると、携帯が鳴り、『静香』の文字が浮かび上がった。
平日の昼間だというのに、電話がかかってくるってことは緊急事態の可能性が高い。
そう思いながら電話に出ると、静香は元気な声で「おっつ~!」と言ってきた。
「あれ?会社は?」
「代休だよ。この前休日出勤したし!偉すぎない?」
「自分で言っちゃダメでしょ」
笑いながら冗談を交えて話す。
ただそれだけの事なのに静香は「良くなったみたいじゃん。安心した」と笑いながら言っていた。
『静香ならわかるかも…』
そう思い立ってしまい、昔の話を切り出してみると、静香は困った様子で話し始めていた。
「私もさぁ、木村君と直接話したことないんだよね。仕事の話も人伝に聞いたし、なんか5,6人くらい間に入って私のところに来たらしいよ?伝言ゲームみたいでしょ」
「それでよく話が伝わったねぇ」
「ホント、感心するよね!ところでさ、会社にユウゴって人居ない?中島雄吾」
「いるよ。どうかした?」
「あの人、高校2年の時に中退したでしょ?高校中退してから、映像系の会社でずーっとバイトしてたんだって。業界歴だとあの人のほうが断然長いから、いろいろ相談に乗ってもらえるんじゃない?」
静香の言葉を聞いて、卒業アルバムにユウゴ君の姿がなかったことを思い出した。
「なんでやめたの?」
「んー。よくわかんないけど、確か、バスケ部の部室で喧嘩したみたいだよ。二人相手に一人でボコボコにしてたって。ってかさ、バスケ部のマネージャーだったでしょ?覚えてないの?」
「…全然覚えてない」
呆然としながらつぶやくように言うと、静香の声のトーンが低くなり「どの辺からわかんない?」と真剣な様子で聞いてきた。
どの辺からと聞かれても困るんだけど、『木村君とその周辺にいた人たちの事』が思い出せない。
修学旅行と言ったイベントごとや、クローゼットから出てきた小物をどこで手に入れたかとか、昔よく読んでいた本のどこが好きだったとかはすぐに思い出せる。
けど、木村君に関わることはほとんど思い出せないし、思い出そうとすると頭痛がする。
その事を静香に言うと、「なんだろうねぇ。心配ならカウンセリング行ってみたら?もしかしたら、激務の後遺症的なものかもしてないし」と心配する声。
「そうだね…」と小さくつぶやいた後、軽い頭痛を感じていた。
静香の情報は少なすぎる。けど、何もないよりは断然マシだし、誰にも言えなかったことを相談しただけで、少しだけ気持ちが軽くなった。
その後、静香と少しだけ話をし、電話を切った後、すぐに心療内科の予約を入れた。
これが正しいことなのかわからない。
けど、ここのところ頻繁に起きる頭痛の原因がはっきりすれば、どう対処すればいいのかがはっきりすると思う。
期待と不安が入り混じる中、大きくため息をついた。
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