第14話 疑問
アルバムを開くと同時に、激しい頭痛とめまい、吐き気を覚えた後、そのまま眠ってしまったようで、気が付くと朝日が差し込んでいた。
時計を見ると午前6時。
昨夜起きた頭痛やめまい、吐き気は一切なく、体調も比較的良い方だった。
ただ、アルバムに付いていた付箋のことを思い出すと、鈍い頭痛を感じてしまい、出勤をするかどうか迷っていた。
今から準備をすれば、時間的には十分間に合う。
けど、木村君と会った時に、またあの頭痛とめまいが起きないという確証はない。
もし、頭痛とめまいが起きてしまったら、心配させてしまうし、あの忙しい中で迷惑をかけてしまう事になるだろう。
そう思うと、『朝から出勤する』という考えには至らなかった。
『在宅で』とも思ったけど、ここは実家。
パソコンがあるにはあるけど、かなり古いタイプだし、スペックも足りず、使用可能なソフトもない。
『行くしかないのかぁ… 午前中休みもらって午後行く? 午後だとまた送るとかなんとか言われそうだし… じゃあ午前中だけ? 午前中はまた頭痛がなぁ…』
自問自答を繰り返していると、携帯が鳴り、『木村君』の文字が浮かび上がっていた。
電話に出てすぐに、「体調どう?」と、心配する言葉が聞こえてきた。
返事に困っていると、何かを悟ったように「あんまり良くないみたいだな」とため息交じりに言っていた。
「どうかしたんですか?」と聞くと「ん?ちょっとな。急ぎの案件が着たんだけど、ユウゴも手いっぱいだし、俺も出なきゃいけなくてさ」と言いにくそうに言っていた。
少し迷った後「午前中だけなら…」と答えると、木村君は弾んだ声で「マジで!?助かる!!少し遅れてもいいからね!」と言い、一方的に電話を切ってしまった。
『よっぽど忙しいんだなぁ』と思いながら身支度をし、朝から聞かされた母親の小言にうんざりしながら、少し重く感じる体を引きずるように実家を後にした。
しばらく来ない間に変わってしまった街並みを見ながら歩き、昨日まで気が付かなかったセミの鳴き声に耳を傾け、電車に揺られてた。
駅に着き、少し歩いていると、背後から「おはよ~」と言う声が聞こえ、振り返るとケイスケ君が駆け寄ってきた。
「おはよう…ございます…」
「同級生なんだから敬語なんてやめようぜ!昔よく話してたじゃん!」と元気に笑いかけるその笑顔に、かなりの疑問を覚えた。
『よく話してた』と言われても、話した記憶もないし、顔と名前が一致したのだって、昨夜の卒業アルバムがきっかけ。
『初対面』と言った方がしっくりくるのに、当たり前のように話してくるケイスケ君に疑問ばかりが頭に浮かんだ。
ケイスケ君と出勤すると、社内には木村君とユウゴ君の二人が真剣な様子で話していた。
ユウゴ君は「おはよう!」と元気に言っていたけど、木村君は神妙な面持ちで「おはよう」と言うだけ。
昨日は強引に座らされ、勢いで作業をしてしまったけど、本当にあの席でいいのかわからず、その場に立ちすくんでいた。
「どうした?」とユウゴ君に聞かれ、「…どこに座ればいいですか?」と聞き返すと、ユウゴ君は「面白いこと聞くね。昨日と同じ場所でいいよ」と笑っていた。
昨日と同じ場所に座ったは良いんだけど、左には木村君、右側にはユウゴ君。
しかも二人は、少しだけ椅子を後ろにずらし、間にいる私のことなんか関係なしに会話を続けている。
社長と副社長に挟まれ、この上なく居心地が悪かった。
「席、変わりましょうか?」とユウゴ君に聞くと、ユウゴ君は「ん?気にしないで。ここにあるファイルが今日の作業分だから、適当にやっちゃって」と。
私の後ろを行き来する会話を遮るように、ヘッドフォンを着けて作業を開始した。
しばらく作業をしていても、二人の会話は止まらず。
ヘッドフォンのおかげか、さっきよりは気にならずに済んでいた。
編集作業をしている最中『このエフェクト、もうちょい右かな』と思いながらキーボードを操作していると、右からクイっと頭を押し返された。
何も気にすることなくしばらく作業をしていたけど、何度も頭をクイっと押され、真っすぐの状態に戻される。
何度か頭を押された後、「何ですか?」とユウゴ君に聞くと、「それ癖?ターゲットを右に動かそうとすると、顔が右に傾くよね」と笑いながら指摘。
今までそんなことを言われたことがなかったから、少しだけ驚いたけど、その後も何回も頭を押され、自分の癖に初めて気が付いた。
それ以外にも、「考え事をしていると口を触る」とか「困ったときには耳を触る」とか、全然気が付かなかった癖を指摘されてしまい、『この人たち、こんなにたくさん癖に気が付くなんて、実は暇なのかな…』と言う疑問が頭に浮かんでいた。
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