第13話 卒業アルバム
実家に入ってすぐ、聞こえてきたのは母親の声。
「どうしたの急に。また痩せたでしょ!ちゃんと食べてるの?だからアパート引き払って帰って来いって言ったのに。ったくあんたって子は…」
マシンガンのように話され、返答する隙すら与えてくれない。
「はいはい」と言いながら階段を駆け上がり、自分の部屋に逃げ込んだ。
そのままベッドに倒れこみ『疲れた…』と大きく息を吐く。
少しだけボーっとしていると、ノックもせずに母親が部屋に入り「ご飯食べるでしょ?なんでも食べれるの?」と聞いてきた。
「あ、うん。そんなに食べれないからちょっとでいいよ」と答えると、またしてもマシンガンのようなお小言開始。
逃げ場もなく、反論する気力もなく、ただただ「はいはい」と答えているだけだった。
お小言に飽きたように、母親が部屋を出て行く。
『ホント、昔っからああだったよなぁ。まだマシになった方か。高校の時はもっと凄かったもんなぁ』
そう思うと同時に『卒業アルバム、どっかにあるよな』と思い立ってしまい、クローゼットの中を漁り始めた。
小学校と中学校の卒業アルバムはすぐに見つかったけど、高校のアルバムだけがなかなか出てこない。
母親が勝手にどこかにしまった可能性も否定できない。けど、小中学校のアルバムがここにあるってことは、クローゼットの中にあるはず。
クローゼットの中に入っていた段ボールをひっくり返してみても出てこない。
ゲームセンターで取った小さな人形や、お土産でもらったキーホルダー、たくさんのプリクラが貼ってある手帳や、昔よく読んでいた本、高校の時に使っていた携帯までもが出てきたけど、卒業アルバムだけが出てこなかった。
『どこやったかなぁ…』
そう思いながらその場で横になり、ボーっと思い出す。
けど、全くと言っていいほど思い出せず、母親の呼ぶ声が聞こえると同時に諦めていた。
食事をとった後、何年振りかに湯船に入った。
一人暮らしをしていると、シャワーで済ませることが多いし、前の会社にいた時は、帰れない日もあったせいか、湯船に入るという行為自体に、懐かしさを覚えていた。
『こんなにのんびりするの、久々だな』
そう思いながらゆっくりと入浴し、ペットボトルの水を持って自分の部屋へ。
ベッドに横になろうとした時、勢い余りすぎて、壁に頭を強打してしまい、頭を抱えながら蹲っていた。
言葉にならないほどの痛みと同時に、視界が真っ暗に。
少しの間、悶絶した後、視界がぼんやりと元に戻ると、白く細長いものがベッドと壁の隙間に挟まっていた。
『なんだこれ?』と思いながらそれを抜き出すと、視界に飛び込んだのは『東第二高校 卒業』の文字。
『なぜここに?』と思うより先に、アルバムをケースから出していた。
表紙をめくると、空白のページいっぱいに、思い思いに書かれた同級生からのメッセージ。
ただ一つのエリアだけ、何も書かれていないスペースが四角く囲ってあり、そこを避けるように、応援する言葉ばかりが並んでいた。
妙な位置に存在する、空白のスペースに疑問を抱きながら、次のページを開くと『鈴木啓介』と書かれた写真の人が、グレーのスーツを着た人だということが分かった。
『鈴木君… そういやケイスケって呼ばれてたな』
そう思いながら視線をずらすと、紺色のスーツを着た人が、学生服姿で写真に写っていた。
『本田浩平っていうんだ… コウヘイなんて呼ばれてたっけ?』
次のページを開くと、少しふっくらとしていた学生服姿の自分と、静香の写真。
『懐かしいなぁ』と思いながら次のページを開くと、一つのエリアだけ、隠すように付箋が貼ってあった。
不思議に思いながら付箋をはがすと、『木村大地』の文字と写真。
それを見た瞬間、激しい頭痛に襲われ、目を開けていられなくなってしまった。
無理やり目を開けると、視界がぐるぐると回転し、頭痛はさらに激しくなり、吐き気を覚えるように。
『無理。起きてらんない』と思い、その場で横になり、アルバムから手を離した。
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