第8話 期待

涙がこぼれてすぐに、携帯が鳴り、『木村君』の文字が表示されていた。


すぐに電話に出ると、木村君はかなりテンションが高かった。


「見たよテスト!ホントすげーわ!合格!」


自分で想定していた答えとは、正反対の反応をしている木村君に、かなりの違和感を覚えた。


「え?あれで?」


「だってさ、素材送ってから2時間しかかかってないんだぜ?確かに動作はもっさりしてたし、ところどころカクついてたけど、修正時間は充分あるし、問答無用で合格だよ!」


思わぬところを評価され、言葉が出てこなかった。


『早ければいいってもんじゃないのよ』


いつか山根さんに言われた言葉が脳裏をよぎる。


木村君の興奮した様子を聞いていると、次にかけられる言葉も安易に予想できる。


『期待してるからね』


山根さんの言葉が過り、気持ちが一気に沈んでしまった。


「いやこの早さはホントすごいわ!今までで断トツだよ!これからなんだけど、在宅でできる範囲でやってほしいんだ。いきなり案件抱えるとか、全然期待してないからさ。出社できるようになったら、少しずつ仕事も増えるけど、基本的に俺とペアでやるようになるからよろしくな」


意表を突く言葉に耳を疑った。


「ペアで?」


「ああ。うちの会社、半人前の集まりだから。二人で一人前になればいいだろ」


笑いながら話してくる木村君に、「社長がこんなので大丈夫か?」と言う不安を覚えたけど、沈んだ気持ちは少し軽くなった。


もしかしたら、今までとは全く違うかも

もしかしたら、期待されないでいられるかも

もしかしたら、押し付けられなくて済むかも

もしかしたら、もう一度やり直せるかも

この会社なら、嘘をつかずに「大丈夫」って言えるかも


不安と気持ちが入り混じった状態で、新たな作業に取り掛かった。

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