第7話 言葉の重み
木村君からの誘いがあった翌日。
朝からパソコンを立ち上げ、作業をしていた。
あの後、自ら「テストしてみてよ。しばらくパソコン触ってなし、ブランクあるから。それで合格だったら在宅スタートでどう?」と提案し、その作業に追われていた。
電話を切った後、自ら発言してしまったことを後悔したけど、やらないわけにはいかないので、手を動かしていた。
『楽しい…』
そう思うと同時に、過去のことが頭に浮かんだ。
-----------------------------------------------------
以前の会社では、事務員として入社。
入力作業をメインに熟していたんだけど、隣の部署の女性である山根さんから「ちょっと一人手伝って」と声をかけられ、私が上司に指名されたため、山根さんのもとへ向かった。
「書類の棚がいっぱいになっちゃってさぁ。組み立てよろしくね」
そう言われ、大きな棚を組み立てた。
元々、物作りが好きだったし、棚はいくつも作ってきたから、説明書がなくても簡単に作れる。
すると山根さんが「物作り好きなの?」と聞いてきて「はい!大好きです!」と答えた。
「じゃあさぁ、映像編集してみない?」
この言葉がきっかけで、いくつもの雑誌を読み漁り、ハイスペックのパソコンまで購入した。
わからないことがあったので、定時後に山根さんに聞くと、その場で丁寧に教えてくれた。
「完成したら見せてね」
そう言われ、完成したものを見せると、それが社内で噂になり、万年人手不足だった制作部に部署移動。
「期待してるからね」
「お願いね!」
「よろしくね!」
簡単に投げかけられる言葉は、どんどん重みを増していき、積み重なっていく言葉の重みに耐え切れず、私自身、限界をはるかに超えてしまったんだ。
すべての重みがなくなった後は、孤独しかなかった。
簡単に投げかける言葉も、そばに来てくれる人もいない。
こちらから歩み寄ろうとすればするほど遠ざかった。
『期待してるからね』と、輝くような笑顔で言われていた言葉は、
『期待してたのにね』と、汚物を見るような目で言い放たれた。
-----------------------------------------------------
『終わった…』
完成したものをチェックすると、全体的な動きがぎこちなく、以前の会社ではやり直しを命じられるほど、完成度はかなり低かった。
『これで諦めてくれたらいいんだけど…』
完成したファイルを指定されたフォルダに入れ、メールを送る。
横になり、ボーっと天井を眺めていると、頭の中で山根さんの声が聞こえた。
『は?これで完成なの?これでクライアントが満足するとでも思ってるの?』
『うちの会社、泊まりOKだから。もっとマシなもの作りなさい』
『期待してたのに、残念ね』
事務員のときは、どうしようもない映像でもあれだけ感動してくれたのに…
以前だったら、丁寧に指導してくれたのに…
昔だったら、話しかけただけで笑顔を向けてくれたのに…
『…今更か』
ふーっと大きく深呼吸をすると、涙が零れ落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます