第2話 電話

それから数日間、ひたすらゴロゴロしては、気が向いたときに家事をする生活。


家事と言っても、本格的なものではなく、汚れが気になるところだけを軽く拭き取る程度。


食事もおかゆやお茶漬けがメインで、洗濯は着るものがなくなりそうなときにするだけだった。


着るものと言ってもジャージばかり。


通院と買い物は仕方なくするけど、ジーンズにTシャツばかりで、肌寒い時には上に軽く羽織る程度だ。


『バッチリ着飾って外出!』なんて、考えただけで頭痛がするし、電話に出るのだって億劫になっている。


何度か携帯が鳴っていたけど、画面に表示された『静香』という名前を見るだけで、

返信をしたり、電話に出ることはなかった。



その日の夕方。


『あ、買い物行かなきゃ。シャンプー無いや』


そう思い立ち、出かける準備をしていると、またしても携帯が鳴り『静香』と表示されていた。


放置しようと思ったけど、手が滑って携帯を落とした拍子に、画面をスライドしてしまったようで、『通話中』の状態になってしまった。


「ちょっと~!携帯で居留守しないでよぉ!」


手元にある携帯から、静香の元気な声が聞こえる。


ふーっとため息をついた後


「いないんだから仕方ないじゃん」


普段通りに対応をしたんだけど、電話の向こうから聞こえる騒音がひどくて、聞き取りにくかった。


「いる   よぉ。  かさ、    る?」


「は?何言ってるのかわかんないんだけど。今どこよ?」


「今? いま  だよ」


「え?どこよ?」


「だ   って!そうい     る?」


「全然わかんない」


何かを必死に伝えようとしてるんだけど、途切れ途切れで全くと言っていいほど聞き取れない。


「わかんない。うん。全然わかんない」と、適当に相槌を打っていたら


「じゃあ   ね!あ!電車きた!じゃね!!」


一方的に電話を切られ、どっと疲労感に襲われた。



『買い物は明日行こう』


そう思い立ってしまったが最後、今さっき履いたばかりのジーンズから、脱ぎたてのジャージに着替え、ベッドに倒れこんだ。

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