第5話
私が本部に提出した報告書は全く簡素なものでそれについては是も非もないはずだった。それ故、その数日後に神父様から呼び出されその第一声を聞いた時は耳を疑った。
「なぜ村を滅ぼさなかった?」
喉の奥にとてつもなく重たい何かがひっかかるような感覚とでもいえばいいのだろうか。胸の奥にタールを流し込んだような、そんな不快感を殊更に感じた。
「…標的の神父はもういないのにですか?」
その言葉が口をついて出てからしまった、と思った。
神父様は私の質問それ自体を不敬と受け取ったのか、長い沈黙があった。眼前で組み合わせた拳が隠しようもない怒りで震えていた。
「……何様のつもりだ?」
私が無言でいると神父様は席を跳ねるように立ちあがり私の右頬を右手の甲で叩いた。
神父様の傍らに立っているもう一人の掃除屋のヴァイオレットは無表情のままだった。
「あの村では異教徒の呪われた祝祭が行われる!異教は穢れであり異教に毒された民も一人残らず穢れている!これを見ろ!!これは……!!貴様自身が!!書いた!!報告書だろうが!!」
神父様は手にした報告書の束を何度も机に叩きつけた。
私は痛みと熱を持った唇を再度引き結び言った。
「私の意見は報告書のとおりです…今はまだ壊滅させるには得策ではないと判断いたしました…」
神父様は椅子に座り直すともはや先ほどまでの烈火の如き怒りは奇妙なまでに消え去っていた。
「お前…異教者に情を持ったか?」
それは臓腑がぞっと底冷えるような声音だった。
「滅相もございません!」
「いいかグレイス…私に隠し事など出来ると思わぬことだ…分かっているだろうな貴様…次はただではおかない…そのようなことは神が許しはしないのだ…」
神父様は自らの手の平を拳で何度も殴りつけながら繰り返した。
「他でもない貴様が殲滅しに行くのだ。穢れた異教の血を粛清するのだ。他でもない貴様がだ」
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