第3話
荒野を二日歩きどおし目的地の廃屋に着くと私は手紙をマッチの火で焼いて証拠を消した。
今回の標的は西国と東国の境のとある村の神父。
西日が差し込む窓の手前。右から二番目の底板の釘を外すと下から布に包まれた荷物が出てくる。中身は見慣れた修道服と毒針が仕込まれたロザリオだった。
あと半刻もすれば日は山向こうに沈んでしまう。私はブラウスを引き抜くように脱ぐと手早く修道服に身を包みロザリオを首から下げた。
廃屋から向こう側の村を覗くとギターを鳴らしている男が見えた。
所詮は異教徒の村。可能であれば村人全員を殺してもいいと神父様からは申し付けられていた。だがこの軽装備で実行するのは流石に無茶に思えた。さらにこの村は西と東の数少ない中継地点であり使いようによっては貴重な補給基地にも成り得る。村ごと殲滅するのは得策ではないように思えた。
「ごめんくださいませ」
私は村の入り口を入ってすぐのテラスに座した素朴な目の色をした老人に話しかけた。
「私は正教の本部から配属されてきたシスターのグレイスです。チェスター神父の助手として派遣されてきました」
そういって恭しく聖印を胸元で切る。
「おお…本部からか、それはありがたい…だが残念なことに実は神父様はもうこの村にはいないんだ。つい数日前に亡くなられてしまってね」
私は標的だったはずの神父がもう既に死んでしまったのだということを知った。到着してすぐ私がここへ来た理由がなくなってしまった。
こういったケースは初めてではない。だがこんな時は安堵感よりも虚脱感が襲ってくる。
私が思案に暮れていると老人は励ますように言った。
「あなたがここへ来られたのもきっと何かの思し召しだ。今日はその神父様を追悼する祭りが夜中から明け方にかけてあるんだ。よかったら見て行かないか?祭りは夜からだから少し休んでいくといい」
私が是非を言う間もなく、老人は声を上げた。
「おおい、スカーレット!シスターグレイスを客間まで案内してくれ」
しばらくして家屋の中から物音がしたのちスカーレットと呼ばれた緋色の目の少女が顔を出した。
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