第09話 結論ファーストと言いたいことは2度言え。

 「結論ファースト......? 結論のことを第1に考えます、ってことかな」


 「それは某都知事のセリフと混ざってる。ファースト違いだ」


 山岡は記者に囲まれた某都知事を思い浮かべながら、話を続けた。


 「結論ファーストは、結論を最初に書く、ってことを指してる」


 山岡はそう言うと、見山が書いた志望理由と山岡が書いた志望理由を並べた。


【見山が書いた志望理由】

『私は貴社のお菓子が大好きです。特にお菓子の◯◯が好きで、幼い頃から食べていました。

(省略)

そして、いつか私の考えた◯◯を販売して、多くの人々に喜んでもらいたいです』


【山岡が書いた志望理由】

『私は貴社に入り、多くの人々に喜んでもらえる◯◯を考える仕事がしたいです。私は幼い頃からお菓子の◯◯を食べていました。

(省略)

そして、いつか私の考えた◯◯を販売して、多くの人々に喜んでもらいたいです』


 「まず、見山が書いてきた文章の中で結論を見つける必要がある。見山、どれか分かるか」


 「えぇっと......」


 「ちなみに言うと、見山は無意識にこの志望理由の中に結論を書いてる」


 「えっ、そうなの」


【見山が書いた志望理由】

『私は貴社のお菓子が大好きです。特にお菓子の◯◯が好きで、幼い頃から食べていました。

(省略)

そして、いつか私の考えた◯◯を販売して、多くの人々に喜んでもらいたいです』


 見山はじっ、と自分が書いた志望理由を見直し始めた。そして手を上げた。


 「分かった! 『私の考えた◯◯を販売して、多くの人々に喜んでもらいたいです。』の部分だね!」


 「うん、あってる。ちなみに、何でそれが結論だって分かった?」


 「うーん......最後に書いてあったからかな」


 「そう、そこだ。俺らは無意識のうちに、結論を最後に持ってくるように書いていることが多い」


 山岡は見山の文章の最後に書いてある文を指差した。


 「何故かと言えば、結論は最後に書いてある、って義務教育で教わってるからだ」


 見山は閃いた顔をした。


 「確かに......言われてみれば筆者の言いたいことは最後に書いてある、って教わった気がする」


 山岡は頷き、その後を説明する。


 「起承転結とかはその典型だな。小説とかマンガとかは、結論を最後に書く。最初に結論が分かったら、その後を読む楽しみがなくなるからな」


 「分かる。マンガのネタバレする奴とか本当に信じられない......絶対に許さない」


 見山が謎の復讐心に燃えている。山岡はそんな見山を尻目に、補足する。


 「オチが予想できる、あるいは毎回オチが決まってる物語はあるが......今回は関係ないから置いておこう」


 「うんうん! 水戸黄門的なやつね!」


 山岡は見山を2度見した。


 「水戸黄門分かるのかよ、渋すぎる」


 「やっぱり助さんが最高!」


 「お前......守備範囲広いな」


 水戸黄門が分かるギャル、はなかなかレアではないだろうか。しかも助平助さん推し。大分話が脱線したので、山岡は話を戻した。


 「エントリーシートは小説じゃない。相手に自分のことを知ってもらうための文章だ。だからこそ、分かりやすく書くことが絶対だ」


 「結論を最初に言った方が、その後の話が分かりやすいもんねー。よく分かんない話聞いてると、だから何、って思っちゃうし」


 見山はメモを取っている。


 『結論ファースト 最強』


 と書いているのが山岡に見えた。


 「まぁ、結論ファーストの大切さは分かってもらった思うけど......さっきの文章をもう1度読んでみてほしい」


 「?」


 見山は再び2枚の紙を見比べた。


【見山が書いた志望理由】

『私は貴社のお菓子が大好きです。特にお菓子の◯◯が好きで、幼い頃から食べていました。

(省略)

そして、いつか私の考えた◯◯を販売して、多くの人々に喜んでもらいたいです』


【山岡が書いた志望理由】

『私は貴社に入り、多くの人々に喜んでもらえる◯◯を考える仕事がしたいです。私は幼い頃からお菓子の◯◯を食べていました。

(省略)

そして、いつか私の考えた◯◯を販売して、多くの人々に喜んでもらいたいです』


 「うーん......」


 見山は腕を組みながら眉間にシワを寄せている。


 「ヒントは2つの文章には同じ部分がある」


 「......!」


 見山は目を見開いた。


 「やまさんの文章、最後にも結論書いてる」


 「その通り!」


 山岡が親指を立てる。そのポーズを若干ダサいと思いつつ、見山は話を続ける。


 「え、でも結論を最初と最後に書くのってウザくない? ちょっとしつこいって言うか」


 見山はそう言って心配そうに山岡を見る。ここは案ずるより産むが易しの精神で、山岡は答えた。


 「そう思うのなら、もう1回俺の文章を読んでみてくれ」

 

 見山は山岡の書いた紙を両手に持ち、読み始めた。


『私は貴社に入り、多くの人々に喜んでもらえる◯◯を考える仕事がしたいです。私は幼い頃からお菓子の◯◯を食べていました。◯◯が好きな理由はその食感と濃厚な甘さです。パキン、という軽快な食感と口の中で溶けたときの甘さが非常に好きです。


 私はそんな◯◯を多くの人に届ける仕事がしたいです。子供から大人まで楽しめるこのお菓子の新しい味を考えたり、どうしたらもっと多くの人に食べてもらえるかを考えたりしたいです。そして、いつか私の考えた◯◯を販売して、多くの人々に喜んでもらいたいです』


 「......そんなにウザくないかも」


 「意外とそうだろ。これが結論ファーストと同じくらい大切な、言いたいことは2度言え、だな」


 「えー、何でウザくならないんだろ。同じこと言ってるだけなのに」


 「理由は簡単だ」


 「えっ、何?」


 「読み手目線で言えば、文の最後を読む頃には、最初に読んだ結論を忘れてるからだ」


 「えー嘘だー!」


 見山はもう1度文章を読み返し始めた。そして、答えた。


 「ほんとだ。あんまり覚えてないかも」


 山岡は頷く。


 「人間の記憶力なんてそんなもんだ。今回の志望理由は200文字ちょっとしかないが、会社によっては400字以内に書かなきゃいけないこともある」


 山岡は文章の最初と最後に書かれた結論を指差した。


 「だからこそ、言いたいこと、すなわち結論は2度言った方が良いんだ。その方が読んでる人には分かりやすい」


 「なるほどねー。そしたら3回くらい言っても良さそう」


 「文字数制限にもよるけど、繰り返しすぎるとしつこいし、文字数稼ぎにも受け取られかねない。そういう意味では、2度、って言うのは適切な数なんだよ」


 「そっか、多いと流石にウザくなるんだね」


 見山は再びメモを取り始めた。


 『言いたいことは2度言え 言い過ぎはウザい』


 「ひとまず、この2つを意識してエントリーシートを書き直してみるか」


 「分かった! 書いてみるね!」


 見山はそう言うとスマホを使って文章を書き始めた。山岡は手持ち無沙汰になる。


 山岡がおかわりの飲み物を頼もうとメニューを見ていると、こちらを見ていた見山と目があった。


 「やまさん」


 「どうした?」


 「やっと就活、って感じがしてきたね!」


 見山はそう言って、ニッコリ笑ったのだった。





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 見山:レベル5→7

  見山は添削指導を受けた!

   レベルが上がった!

  見山は志望理由の書き方を知った!

   レベルが上がった!

 スキル《結論ファースト》習得!

 スキル《言いたいことは2度言え》習得!


 山岡:レベル60

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