第06話 レベル上げに最適な理由と志望理由。
「分かった、インターンがレベル上げに最適な理由は――」
見山は一呼吸入れて、答える。
「3月からの就活と同じように、書類選考や面接があるからでしょ!」
「――その通り!」
山岡がパチパチと拍手する。見山はドヤ顔をして、説明を始めた。
「レベル10はインターンの選考にエントリーできれば良い、レベル20はインターンの書類選考に通れば良い、レベル30はインターンの面接を合格にすれは良い、ってことだね!」
「大正解だね」
見山は満足そうな顔をしている。一方、山岡はここまでの長い説明が終わり、肩の荷が降りた気分だった。
「レベル上げ、って視点で見れば、インターンは書類選考か面接がある募集を受けた方が良い」
山岡がそう言うと、見山は頷きながら後を答えた。
「だから、行きたいかどうかはあまり関係ない、ってことなんだね。書類選考と面接のある募集を何度も受けて、レベルを上げていく」
「その通り」
「ふふーん、それなら得意だよ。私、ジム戦は草むらでレベル上げしまくってから挑む派だから!」
胸を張る見山。山岡は、体育座りをしながらポチポチと携帯ゲーム機を操作する見山を思い浮かべた。デジャヴだろうか。
「それならこのやり方が向いてるな」
山岡の言葉に対し、見山は頷きながらスマホを取り出した。
「善は急げだよ! インターン探してみる!」
「おー、良いやる気だ。今なら冬のインターンがあるはずだから、ちょうど良いな」
インターンは主に夏、秋、冬の3回の時期に分かれて開催される。企業によってはその全ての時期でインターンをやるところもあれば、1つの時期だけ開催のところもある。また、各社が最も力を入れる時期は、就活解禁時機の直前に当たる冬のインターンだ。
見山はスマホをポチポチしながら話し始めた。
「探してみると、意外と選考が無いインターンが多いね。書類選考だけとか、面接もあるところとか、会社によってインターンの条件もバラバラ」
「1dayインターンは選考が無いところが多いな。後は気になったら取り敢えず申し込んでみるのが良いと思う」
見山はうーんと首をかしげる。なかなかどのインターンを選ぶべきか決めかねているようなので、山岡は助け船を出した。
「俺は華やかで給料がよさそう、って理由で広告会社とかも申し込んだことがあるよ」
バッと見山はスマホから顔を上げ、山岡の顔を見た。
「やまさんが広告会社! ......似合わないかな!」
そう言って笑う見山に対し、山岡はムッとしながら答えた。
「失礼な。まぁ書類選考落ちだったから、その通りだけど」
「意外! 働いてるところは想像できないけど、採用は通りそうなのに!」
「当時は俺もレベル低かったしな......それに、広告会社の書類選考は難しい」
山岡はその頃のことを思い出しながら、話す。
「その会社の書類選考の時には、『あなたがあったら良いなと思うサービスを書きなさい』って内容があって、全然うまく書けなかった。多分そこで落ちたと思う」
見山は興味深そうに山岡を見ている。
「そんなこと書かせる選考もあるんだね......。私も書ける気がしない」
見山だったら発想力がありそうなので、案外受かるかもしれない。見た目的には広告会社にいてもおかしくなさそうだし、と山岡は思いつつ、話を続けた。
「他の選考だと、『A4の白紙にあなたの自己紹介を書いてください』とかもあったな。絵もありだし」
見山は目を輝かせ、山岡に尋ねた。
「やまさんが書いたやつ見てみたい! 残ってないの?」
「もう無いかなー」
「えー、絶対残ってるでしょー」
見山は駄々をこねたが山岡はスルーした。ふて腐れながらも、見山は再びインターンを選び始めた。やる気を出した見山を眺めながら、このインターンで見山が何かを掴むことができれば......と山岡は思った。
※※※※※※※※※※※※
A食品会社のインターンは、いわゆる1dayインターンシップというやつだ。ただ、書類選考がある。インターンで何日も拘束されるのが嫌だった見山にとっては、絶好の条件だった。
また、応募するもう1つの理由として、見山はA食品会社のお菓子が好きだと言うことも挙げられる。もし山岡がここにいれば、レベル上げの視点以外で会社を選ぶのは良いことだ、と言うだろう。
肝心の説明会だが――
(そんなに特別気になるところは無いかな)
見山は山岡に言われた通り、説明会に行かなくても分かること、すなわちネットに書いてあるA食品会社のことは大体調べてきていた。A食品会社の就活サイトに載っていること、食品会社のランキング、業界ごとに会社の内容をまとめた資料などなど。
そんな見山からすると、この説明会の内容はそこまで特筆することがなかった。
(ミキちゃんは真面目にメモしてる......偉い!)
見山ことハルの隣のミキは、せっせとメモをしていた。見山は気になる部分だけメモしては、ミキの真面目な姿にホッコリしながら、説明会を聞いていた。
「それでは、説明は以上になりますが、何かご質問ある方はいらっしゃいますか?」
待ちに待った質問の場、見山は勢い良く手を上げた。
「それでは、そちらの――」
当然ハルは自分が指されたものだと思い、立ち上がろうとした。
「――男性の方、どうぞ」
が、指されたのはハルではなく、ハルの前方にいる男子学生だった。1番最初に手を上げられたと思ったのに、とハルは悔しがりながら手を下げた。
指された男子学生は、スッと話し始めた。
「本日は貴重なお話ありがとうございました。1点質問させてください。食品業界には多数の優良企業があり、日々競いあっていると思います。A商品会社様は業界内でも上位の会社だと思いますが、斉藤様がその中でもA食品会社を志望し、入社した最大の理由は何でしょうか?」
髪をオールバックにしたその学生は淀み無くそう言いきると、そのまま直立不動で説明者、斉藤さんの回答を待っていた。
ハルは、この質問の内容が志望理由を聞いていることに気づいた。さらに、聞き方が断然に上手い。ハルの場合は「A食品会社を選んだ理由はなんですか?」とそのまま聞こうとしていた。
この男子学生の質問は同じ内容を聞いているのに、何と言うか、言葉としてはストレートではないのに、内容はストレートに聞いている、と見山は感じた。
「入社した最大の理由ですか。就活をしていたのは5年以上前なので、はっきりとは覚えていないのですが......確実に言えるのは、私はこのお菓子が好きでA食品会社を志望しました」
説明員の斉藤さんはそう言うと、ポケットから何かを取り出した。それは、誰もが知っているピーナッツをチョコでコーティングしたお菓子だった。斉藤さんがそれを振ると、カラカラと小気味の良い音が鳴った。
そこからの斉藤さんは凄かった。そのチョコの良さを語りだしたのだ。何故このチョコが好きか、このチョコの良いところはどこか、このチョコの味のラインナップなどなど。聞いているだけで、「あぁ、このチョコが好きなんだな」と分かるような説明だった。
斉藤さんはふと我に返り、話を中断した。
「まだまだ話せますが、ここまでにしましょう。これが私の志望理由ですね」
「はい、ありがとうございました」
男子学生はお礼の言葉を述べると、スッと椅子に座った。斉藤さんは説明会を続ける。
「他に質問のある方、いらっしゃいますか?」
斉藤さんがそう聞いたところ、手を上げる学生は1人もいなかった。当然ハルも、聞こうと思っていたことを聞かれてしまったので、手を上げられない。
斉藤さんは腕時計を見て、こう言った。
「それでは、本日の説明会は以上になります。ありがとうございました」
こうして、ハルの人生初の説明会は幕を閉じたのだった。
「ハルちゃん、A食品会社の説明会はどうだった?」
ミキが手元のメモやパンフレットを片付けながら隣を見ると、そこには落ち込むハルの顔があった。
「初説明会だったのに、何もできなかった......」
せっかく準備してきた質問も、他の学生に言われてしまい、何か質問しようにも思い付かなかったハル。
「そんなに落ち込むこと無いよ、ハルちゃん。私だって説明会で質問したことそんなにないし」
「でもでも、もう何個か質問用意しとくんだった......。用意してた質問、オールバック君に言われた瞬間、頭真っ白になっちゃったし」
「オールバック君って......」
突っ込みをいれつつ、ミキは、ハルの予想以上の落ち込みに対し、何かフォローしなきゃと考えた。
「そしたら、後でまたA食品会社の人に話し聞きに行こうよ。その時までに質問考えとけば良いと思うし」
その言葉を聞いたハルは少し考えた後、頷き、立ち上がった。
「そうだね、そうしよう! ひとまずは次の説明会に参加しよう!」
「うん、行こう!」
2人は立ち上がり、次の説明会のブースに向かっていった。
※※※※※※※※※※※※
「何で好きなお菓子を作ってる会社に就職しようと思ったんですか!?」
見山は斉藤さんに向かって、そう尋ねた。
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見山:レベル2→4
見山は悔しい思いをした!
レベルが上がった!
見山は社員さんに話しかけた!
レベルが上がった!
ミキ:レベル19
オールバック君:レベル32
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