第05話 レベル別就活能力診断!
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「そんなことがあったんだね......。じゃあ、ハルちゃんが就活を始めたのは、その先輩に言われたからなの?」
ミキの質問に、んー、と見山ことハルは、顎に手をあてながら考える。その手には今も変わらず、ネイルが綺麗に輝いていた。
「ミキちゃんの言う通りかも。偶然やまさんに会って、ヤバイ、って分かったからね。とりあえず、就活始めてみた! ......って感じかな」
ハルは頷きながらそう言った。ミキは納得したような顔をしている。
「うん、ハルちゃんがやる気になったなら良かった」
ミキは、何ヵ月か前にハルと就活の話をしたことがある。その時のハルは、就活に対して乗り気ではなかった。ミキはそんなハルを心配していたので、ハルがやる気を出したことに対し、素直に喜んでいた。
「うん! 遅れた分はこれから取り返すから!」
ハルは笑顔でそう言った。その笑顔を見て、思わずミキも笑顔がこぼれた。
「あ、そろそろ説明会が始まるみたい」
ミキの言葉に従い、ハルが前方を見ると、男性がスクリーンの横に立っていた。そのスクリーンに資料を写し出して説明をするのだろう。ミキが話を聞く体勢になったので、ハルもそれに習うことにした。
メモを取る準備をしつつ、パンフレットの中を見る。内容としては主に、A食品会社の経営理念や主力としているお菓子商品の紹介が書いてある。中でも気になったのは、先輩社員の業務紹介だ。実際に業務を行う上で必要な心構えや入社前後のA食品会社のイメージの変化が書いてある。この辺りの情報を使えば、うまく志望動機が書けるかもしれない。
今のハルの問題は、A食品会社の志望動機が書けないことだ。それを解決するために、この説明会に参加したのだ。
一見、志望動機が無いのにその会社の採用を受ける、というのは矛盾しているように見える。だが、ハルがA食品会社のインターンを受ける目的は、志望したい会社に入るためでは無い。
あくまで、レベル上げのためなのだ。
(このインターンで、レベル10......ううん、頑張ってレベル20になるんだ!)
ハルは山岡との会話を思い出していた。
話は、説明会を受ける目的の話の前、見山がレベル上げに最適なやり方を聞くところまで遡る。
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「レベル上げに最適なのは、インターンだ」
山岡の発言に、ハルこと見山は目をパチパチさせていた。
「インターン、ってインターンシップのインターン?」
「そうだ」
山岡の言葉に対し、見山はいぶかしげな視線を送る。
「インターンって、行きたい会社とかやりたい仕事が決まってる人が行く、仕事体験みたいなものだよね」
山岡はうーんと考える素振りを見せた。
「まぁ、その考えも合ってるな」
「私、やりたい仕事が無いんですけど」
見山は肘をついて、両手のひらを組み、その上に顎を乗っけている。使徒とか出てくるアニメの、司令官のようなポーズだ。格好に対してセリフが合っていないだろ、と山岡は思いつつ、話を続ける。
「やりたい仕事があるかどうかは関係ないな。仕事体験としてインターンに行くんじゃなくて、レベル上げにインターンを使う、ってことだし」
見山は考える。先ほどの司令官ポーズのまま何秒か停止した後、机に崩れ落ちた。
「んー、分かんない! だってインターンに行ったこと無いもん! インターン受けるだけでも書類選考とか面接あって面倒臭いし!」
見山はお手上げ状態だ。ついでにジタバタして駄々をこね始めた。山岡は作戦を変更し、まずはレベルについて話をすることにした。
ギャルをなだめるために、おかわりの飲み物を頼んだ。山岡はアイスティー、見山はオレンジジュースだ。
「じゃあ、一旦話を変えよう。さっき、大企業のレベルが50だ、って話をしたな」
「うん、してた」
「レベル50が大企業の採用を合格できる水準だとしたら、他のレベルはこんな感じになる」
山岡はテーブルの上の紙ナプキンを取り、カバンに入っていたペンで以下のような図を書いた。
レベル01 就活しようと思う
レベル10 企業の採用にエントリーできる
レベル20 書類選考を突破できる
レベル30 1次面接を突破できる
レベル40 2次面接以降を突破できる
レベル50 内々定を勝ち取れる
当然、企業によっての難易度の差はある。なので、このレベル分けはあくまで参考程度の物だ。
見山は興味深そうにその紙を眺めていた。へぇー、とか、ほぇー、と言って、金髪ボブの髪を揺らしながら、紙を見ている。店員が持ってきたオレンジジュースを受けとり、見山はそれを飲みつつ紙を見続ける。金髪ギャル×オレンジジュース×萌え袖である。
「これだけ見ると、私ってレベル10くらいありそう」
見山は山岡をチラ見しながら、そう言った。すかさず山岡はその一言を一刀両断した。
「いや、それは無い。まず見山、お前は自分の就活用の顔写真を持ってないだろ」
「......持ってない!」
見山は盲点をつかれましたと言わんばかりに、目を見開いて山岡を見ている。これはレベル1の反応。
ちなみに、最近はスマホのアプリでも就活用の証明写真は撮れるらしい。一方で、会社によっては手書きの履歴書に写真を貼らせてきたり、ネット上で証明写真のデータを提出させたりと、対応が異なるので対策は必要だ。
「じゃあエントリーできません。それと、経歴も書けないとダメだ。見山、自分が何年に高校を卒業したとか、中学校の正式名称とか、調べずに今すぐ書けるか?」
「書けません......」
意外と、経歴1つ書くにも調べたり、考えたりする時間は必要だ。
「じゃあ、ますますエントリーできません。見山はまだレベル1だ、これから精進するように」
「ははーっ」
見山が仰々しいお辞儀を決めたところで、話を戻す。
「レベルの基準は、大体そんな感じだと思っていれば良いよ。パッと見、レベル毎に別の能力を求められているように見えるけど、就活でレベルアップする上では同じような能力だから、そこは追々説明しよう」
「分かりました!」
オレンジジュースを飲みながら、見山は答える。両手でコップを持ってジュースを飲む姿は、なんとなくリスを彷彿とさせた。
「そう言う意味だと、やまさんはレベルいくつなの?」
見山は興味本位で聞いてみた。
「俺か? 俺はレベル60だろうな」
見山の口からポロリ、とストローが落ちた。
「レベル60! 意味分かんない! 紙に書いてないじゃん!」
見山のこの反応に対し、山岡はさっき書いた図に1行付け足した。
レベル01 就活しようと思う
レベル10 企業の採用にエントリーできる
レベル20 書類選考を突破できる
レベル30 1次面接を突破できる
レベル40 2次面接以降を突破できる
レベル50 内々定を勝ち取れる
レベル60 複数業界で内々定を勝ち取れる
「こんな感じかな」
「ひえー、やまさんのレベル高いね。複数業界、って他に何を受けてたの?」
見山が紙を眺めながら悲鳴を上げる。
「IT以外だと、メーカーと鉄道とか、かな。」
「うわー、全部バラバラじゃん。よく受けられるねー」
見山は信じられない、という目で山岡を見ている。一方で、山岡は顔の前で手を横に振った。
「いや、そうでもないよ。共通点も多いし。レベル60に達する、ってことは就活に求められてる物が何か、きちんと分かる、ってことだし」
見山は山岡のその言葉に、目を輝かせて、食らいついた。
「え、なになに、就活に求められてる物って!」
山岡は見山のその反応を、めんどくさそうな目で見つめた。
「良いんだよ、そんなの分からなくて」
就活に求められている物が分かれば、複数業界でも内定は取れる。それがレベル60。
だが、実際のところ、レベル50になれれば十分なのだ。特定の業界で、大企業の内々定を取れるのだから。
なのに、レベル60になってしまった理由。
複数業界で内定を取るレベルになるということは、その時期になっても就職したい業界を絞りきれていない、とも言えるのだ。
当時のことを思い出して、山岡は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「そんな先のことは考えずに、まずはレベル1をどうやって上げていくか考えろ」
山岡は再びその紙を指差した。
レベル01 就活しようと思う
レベル10 企業の採用にエントリーできる
レベル20 書類選考を突破できる
レベル30 1次面接を突破できる
レベル40 2次面接以降を突破できる
レベル50 内々定を勝ち取れる
レベル60 複数業界で内々定を勝ち取れる
「うーん......」
見山は紙を眺めつつ、今までの山岡の言葉を思い出していた。
インターン、レベル、3月より前にレベル上げ、レベル上げにインターンを使う、そしてこのレベル分け。
これらの言葉と、今までの経験を踏まえ、見山は閃いた。
「分かった、インターンがレベル上げに最適な理由は――」
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見山:レベル2
ミキ:レベル19
山岡:レベル60
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