第03話 見山との出会いはいつだったか。
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「そんなことがあったんだな」
「あぁ、結構説明するのが大変だった」
山岡の正面に座るメガネの男性、中田は、ビールを飲みながら頷いている。
今日は金曜日。山岡は気晴らしに、大学の同期だった中田を誘って飲みに来たのだった。
今日いるお店は、都心にあり、ビールとハイボールの美味しいお店だ。店内は間接照明が多く使われ、落ち着いた色合いの木の椅子やテーブルが用意されている。席の配置的に他のお客さんとは距離があり、騒がしくないので、気兼ねなく話ができる。2人は仕事のことや最近のプライベートのこと等、思うままに話をしていた。
その中で、山岡は数日前の見山との出来事を話し、中田はそれを聞いていた。話が一段落したところで、中田は思っていたことを述べた。
「見山さんって面白い子だね」
中田が楽しそうに笑っている。山岡は、中田のその言葉を肯定する。
「まぁ、生意気な後輩だけど、本音で話してくれるから気楽だな」
山岡は手元のハイボールを飲む。炭酸の爽快感とウイスキーの芳醇な樽の香りが、口いっぱいに広がる。
「思ったことをはっきり言っても、山岡なら話に付き合ってくれる、って分かってそうだよね」
「......そうかもしれないな」
意外と、見山とは昔からこんな感じで話していた気がすると山岡は思った。
「いやー、でも山岡って割りと近寄りがたい印象なんだけどな。ズバズバ言うし、目付き悪いし」
「目付きは関係ないだろメガネ野郎」
山岡の悪口に対し、中田は笑っていた。グラスが空になったので、店員さんを呼び、中田はビールのおかわりを頼んだ。
「ちなみに山岡は、何で見山さんと知り合ったの?」
「初めて会ったのはサークルの新歓だね」
山岡はぼんやりとその新歓のことを思い出す。その頃の山岡は大学院1年生で、本来ならば新歓に参加する学年ではない。
たが、後輩からの懇願があり、新歓に参加したのだ。その理由は単純で、新歓費用を負担する頭数を増やすためだ。
新歓では、新入生の参加費を無料にし、その費用を新歓に参加したサークルのメンバーで負担する。少しでも1人あたりの負担を軽くしたいというのが、サークルの現役メンバーの思いだ。だからこそ、参加できそうなサークル関係者には片っ端から声をかける。
そんな後輩の思いを理解し、参加した新歓で、山岡は見山と知り合った。山岡はそんなことを思い出しながら、話を続ける。
「当時の見山は、黒髪で、服装も地味な感じだったな」
「そうなんだ。いつ頃から金髪になったんだ?」
山岡は少し考えるが、はっきりとした時期は思い出せなかった。
「いつだろ。多分、新歓の1ヶ月後くらいかな」
「へえ。なんで金髪にしたんだろ」
それは山岡にも分からなかった。
「新歓で話した時は、髪を染めたい、って言ってたな。理由まではおぼえてない」
「ふーん」
中田は少し考え込んだ。店員さんがビールを持ってきたので、山岡はハイボールのおかわりと2人分の水を頼んだ。中田はテーブルの上のサーモンカルパッチョをつまみながら、質問をした。
「見山さんってどんな子なの? ギャルギャルしい子?」
ギャルギャルしい子ってなんだよ、と内心突っ込みつつ、山岡は答えた。
「まぁ、見た目はギャルだけど、真面目でノリの良いやつだよ。サークルの練習にも飲み会にも積極的に参加してたし」
「へえ、意外と真面目なサークルメンバーなんだな。そう言えば、山岡って何サークルだっけ?」
そこを分かっていないのに話をしていたのか。山岡は呆れつつも、メガネ野郎に対して答える。
「陸上サークルだよ」
「陸上かー。山岡って何の競技やってるんだっけ」
「......200m走だよ」
メガネ野郎は学生時代の山岡のことを何も覚えていないらしい。200mかー、と繰り返すメガネ野郎を山岡は睨み付ける。が、それを気にせず、メガネ野郎こと中田は話し続ける。
「見山さんは何の競技をやってるんだ?」
「確か、400m走だったと思う」
「そうなんだ。じゃあ山岡と練習で関わったりもしなさそうだな」
それもその通りだ、と山岡は思う。
ふと、サークルで練習していた頃を思い出す。サークルの練習は近隣の競技場で行われる。競技場を貸し切って使う訳ではなく、解放された競技場に他のサークルや一般の人がやってきて、節度をもって共用する形だ。
そんな中での練習でも、見山は非常に目立っていた。
当然、その金髪も目立つ要因の1つだ。だが、山岡が目立つと思っていた部分は他にある。それは、見山の走りの綺麗さだ。
手足の振り方、上半身の使い方、どれを見ても無駄が無いのだ。競技場を駆け抜けるその姿を目で追ってしまったのは、1度や2度では無い。きっと、高校生時代に真面目に練習してきたんだろうな、と当時の山岡はよく思ったものだ。
「で、そんな見山さんは今頃何してるんだろうね」
中田の声で、山岡は現実に引き戻された。
「まぁ、その時はインターンに申し込む、みたいなことを言ってたけどな」
中田はふーん、と言う顔をしている。
「見山さんと話をした時って、他にどんな話をしたの?」
「後は、レベル上げの仕方とか、説明会に行くなとか、就活必勝法のこととか。」
「就活必勝法? ......あぁ、『つよくてニューゲーム』の話?」
山岡は、最近読み返した就活必勝法の文章の中に、『つよくてニューゲーム』という単語が書いてあったことを思い出した。
「そうそう」
中田は何かを思い出したかのような顔をした。
「久々に聞いたな、『つよくてニューゲーム』。確かに就活必勝法って呼ぶ人もいたっけ。」
あの文章は就活必勝法が正式名称で、『つよくてニューゲーム』の方が俗称だ。一方で、『つよくてニューゲーム』の方が頭に残りやすいフレーズだと山岡は思った。
「まぁそうだな。呼び方は人によってバラバラかな。みんなが知ってる内容でもないし」
「確かにな。俺としては、『つよくてニューゲーム』って言い方は割りとぴったりくるな。あれって先輩方が、就活を効率良く終わらせるために作った就活の取り組み方だっけ」
「そうそう。そんな感じ」
就活必勝法『つよくてニューゲーム』は先輩方が少しずつ書きためた就活論を、誰かがまとめたものだ。山岡と中田が所属していた研究室の物で、わりと重宝した。一読して損はない。
「見山には『つよくてニューゲーム』のやり方で、就活本番までにレベルアップしてもらおうかなと」
中田は楽しそうに笑っている。
「いいね。あと2ヶ月で見山さんがどこまでいけるのか楽しみだな」
「そうだな」
「俺なんて最初の合格通知くるまでに、4,5ヶ月かかったからなー」
中田は遠い目をしている。中田は様々な企業の選考を受けていたが、徹底的に落ちた側の人間だ。本人からしたら苦い思い出だろう。そういう意味では、2ヶ月という期間はとても短い。むしろ足らない。
「懐かしいな」
山岡はハイボールを飲み、喉の乾きを潤した。見山が2ヶ月でどのレベルに達するかは全くもって分からない。ただ、あの真面目なアホギャルの見山なら、何かしら結果を残せると思うのだ。
そんな希望的観測をしながら、山岡と中田の夜は更けていった。
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金曜日が終わった翌日、見山は。
「よし、頑張るぞー!」
説明会の会場前にいた。
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見山:レベル1→2
見山は説明会に参加した!
レベルが上がった!
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