第679話 予測不能な要素
「我が方とグランオーリスは、ピンギャン平原でぶつかったアル。我が方は四十万。敵は十万。大軍同士の激突アルよ」
数だけ見れば、グレートセントラルの圧倒的優勢だな。
「互いの軍勢が見える距離で陣を張り、何度かぶつかったアルが……未だに決着がついていないアル」
「開けた地形でそれだけの兵力差があっても、決着がつかないのかい?」
ネルランダーが訝しげに尋ねる。
「だまらっしゃいアル。これにはきわめて複雑的事情があるアル。忌々しいモンスター共の邪魔が入るアルよ」
「なるほどね~」
アルドリーゼは頷く。
「瘴気に侵されたモンスターが、戦場の熱気や狂気に誘われてやってくることは最近ではよくあることだけどね~」
「そうアル。そのせいで、兵力のほとんどをモンスターの対応に割かなければならないアル。戦闘中だけじゃなく、しょっちゅう陣にやってきて暴れるアル。多い時は、ほぼ毎日アル。我が兵は精強ゆえ、瘴気のモンスターごときに手こずらないアルが……実際、まことにうざったいアルよ」
「うーん? しかし、うちはそんなにモンスターが乱入してくることはないけどね。グレートセントラルの戦線にそれほど多くのモンスターがやってくるのは、なにか理由があるのかな?」
「グランオーリスの戦術とか~? あの国はさ~、瘴気を利用するって話だし~。瘴気を使ってモンスターを操っているのかもよ~?」
「それに今グランオーリス軍には、かの『百魔統率』ヒーモ・ダーメンスもいると聞く。彼のスキル『エビルドア・ファインダー』は、瘴気に侵されたモンスターさえテイムするらしいじゃないか」
ここでヒーモの名前を聞くとはな。没落貴族だからこそ、あいつもなかなか頑張っているようだ。
「どうアルかね。モンスターはグランオーリス側の兵士も襲っているアルから、『百魔統率』の仕業ではないと思うアルが」
「カモフラージュのために、自軍を襲わせてるって可能性は~?」
「戦力不利でそんな愚は犯さないだろうなぁ。『エビルドア・ファインダー』を隠すメリットもない。彼はすでに有名な冒険者だ」
なら、純粋にモンスターが乱入しているということだろう。戦争どころじゃないな、それは。
リュウケンが忌々しげに鼻を鳴らす。
「フン。そのような状況ゆえ、大軍同士対峙していながら、実戦は少数精鋭の小競り合いとなっているアル。直近では、将同士の一騎討ちが主流になりつつあるアル」
「お互い、兵力の損耗を恐れているんだね」
「そういうことアル」
「で? 一騎討ちの戦績はいかがなものなんだい?」
「……フン」
リュウケンが掌を上に向ける。そこから光が浮かび上がり、その輝きがモニターを形成する。なにやら魔法で画像を作っているようだ。
「先日、両軍の最も強い将が一騎討ちにて矛を交えたアル。我が方からはここにいるチョウ・テンフが。グランオーリスからは、こやつが名乗りをあげたアル」
リュウケンの手の上にできあがった画像。そこには、ひとりの人物が映し出されていた。
空色の長い髪をなびかせ、戦場に似つかわしくない清楚なワンピースを着た少女。
「……アイリス」
しばらく口を閉ざしていたエレノアが、ほのかに力のこもった呟きを漏らした。
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