第680話 マッサ・ニャラブええ感じやん

 そう。

 画像に映っていたのは、紛れもないアイリスであった。


「へぇ。ベラボーに可憐なお嬢さんじゃないか。彼女がテンフ将軍と一騎討ちを?」


「左様アル」


 リュウケンは、将軍のテンフに喋るよう手を振って促す。


「ああ……あのアイリスというおなご、マジで強かったです。グレートセントラル最強と謳われたこのテンフ君に、勝るとも劣らぬ武勇。武人として感服いたした。しかし」


 しかし?


「あのおなごは未だ境地に達しておりませぬ。故に、このテンフ君に勝つことはできなかった」


「そなたも勝てなかったであろうアル。威張るなアル」


 つまり互角ってわけか。ところで、境地に達するってなんだ?


「このテンフ君。次こそは確実に、アイリスなるおなごの首を取って見せます」


「その意気アル」


 そんなことにはならないだろうけど、万が一と言うこともある。アイリスを守れるよう手を打っておかないとな。


「なるほどね~。グレートセントラルの戦線じゃ、そのアイリスって子が目下の障害なわけだ~」


「そういうことアルよ。問題を明確化するのは重要アル。このおなごを討ち取れば、敵方は今以上にモンスターの対応に追われるアル。そこを我が軍で一挙に壊滅すると、そういう算段アル」


「それは流石に考えが甘い気がするけど、まぁいいや。次は、マッサ・ニャラブの状況を教えてくれるかい?」


 ネルランダーの言葉を受け、アルドリーゼが頷く。


「そだね~。うちはね~、う~ん、ハンコー共和国さんとこと似たようなもんかな~。国境のバリショーイ河を挟んでにらめっこが続いてたんだけど、それをやっとこさ渡河した感じなんだよね~」


 アナベルをよしよししながら話すアルドリーゼ。


「ええ? バリショーイ河を渡ったのか?」


 ネルランダーはわかりやすく驚いている。リュウケンはわかりにくく驚いていた。エレノアは無反応だ。


「ん~。結構てこずったんだけど~。頑張ったら行けちゃったんだよね~。思ってたよりは簡単だったから、敵の罠かとも思ったんだけど~。全軍が渡河するまでなんにも起こらなかったし~、一安心かな~って。今は河を渡ったところに陣を張ってるよ~。今のとこ敵の動きはないかな~」


 ふむ。三国の中で一番善戦しているのはマッサ・ニャラブのようだ。

 十中八九、アナベルのおかげなんじゃないだろうか。

 アルドリーゼが言葉を終えると、ネルランダーはほんの少し真剣な面持ちで口を開く。


「正直、女王ちゃんとこはもっと苦戦すると思ってたよ。なにせ、勇猛で武勇に長けるフルツ族が、緒戦で戦線から離脱している」


「あ~。キーウィの奴ね~。先鋒を名乗り出たくせに、呆気なくやられちゃってさ~。グランオーリスの捕虜になんかなって、恥ずかしいったらないよね~」


 あはは~と、緊張感のかけらもなく笑うアルドリーゼ。

 それに苛立ったか、リュウケンが円卓を叩いた。

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