第643話 アウトドア派やん

「ぬおお」


 ムサシの黒い目が見開かれていく。


「ロートス殿。あのおなご……どちゃくそめんこいでござるな!」


 鼻息を荒くして拳を握り締めるムサシの股間は、見事にテントを張っていた。

 完全に魅了されてやがる。


「ふふ。ねぇお侍さん」


 メイはムサシに色目を使いながら、


「あたし、今その人にひどい目にあわされそうなんだ。だから、あたしのこと守ってくれない?」


「おいムサシ。こんなわかりやすいのに惑わされるなよ」


「黙れでござるッ!」


 うわびっくりした。


「こんなどちゃくそめんこいおなごをひどい目にあわせようだなんて……なんとけしからん、否、羨ましい!」


 訂正前と後が逆になっている。


「やはり狼藉者でござったか! 最初からそうだと思っていたでござるよ! ロートス殿!」


 やだなぁもう。めんどくさ。


「お侍さん。その人を倒してくれたら、お礼にあたしがイイコトしてあげるよ」


「マジでござるか!」


「うん。じゃあ、上で待ってるからね」


 ぱちりとウインクをして、メイは背を向けた。

 広間を去っていく後姿に、俺は溜息を落とす。


「わりと悪女だな」


「はい。呆れた人です」


 レオンティーナもやれやれと首を振る。

 だが、呆けている暇はなかった。音を置き去りにするムサシの抜刀が、俺の首筋を狙って放たれたからだ。 


「おっと」


 俺はそれを、瘴気を纏わせた掌で受ける。刀との接触部から、眩い閃光が迸った。


「フンッ!」


 ムサシは返す刀で俺の胴を狙うが、瘴気を纏わせた腹筋で防御に成功。奇襲に失敗したムサシは、即座に飛びのいて距離を取った。


「おいおい……」


 ムサシは本気だった。

 今の太刀筋には、ただのスキルとは違う力が乗っていた。普通に受けていたら、致命傷は免れなかったに違いない。

 刀を抜いたムサシは、圧倒的な強者のオーラを纏っている。今まで対峙したどの相手とも違う感じだ。流石は剣豪といったところか。


「レオンティーナ。魅了の浄化はできるか?」


「申し訳ありません主様。私の未熟ゆえ浄化には時間が掛かります」


「わかった。俺が無力化する。さがってろ」


「御意」


 俺が指示すると、レオンティーナはすっと姿を消した。


「さて」


 俺もようやく剣を抜く。


「時間が惜しい。恨むなら、魅了されて正気を失った自分の精神力のなさを恨めよ」


「問答無用ッ! あのバチクソめんこいおなごの言うことが、すべて正しいのでござるよ! お命頂戴ッ!」


「笑えるぜ」


 股間にテントをおっ立てたムサシは、全身から白い靄のようなオーラを発しながら、凄まじい踏み込みによって瞬く間に距離を詰めてきた。


「はやい」


 感想を呟いている最中に、ムサシの突きが俺の喉に迫る。

 刀身はほのかに輝き、理を超えた力を纏っていることを示している。


 これを喰らったらやばい気がする。

 俺は身を捻らせて、刺突を回避。カウンターの斬撃を放つ。

 だが。


「『幻龍剣』ッ!」


 ムサシの叫びと共に、その両手にそれぞれ、龍の柄を持つ刀が現れる。二刀流だと? 二振りの一方は俺の剣を止め、もう一方は、俺の胸を正確に貫いていた。

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