第642話 実はよくわかってない十二単
そんなこんなで俺達は城門をくぐって城内に入ったわけだが、やはり歓迎はされなかった。
なので、警備の人間を一人残らず気絶させることで、実質的に見つからないという方法を取ることにした。
俺とレオンティーナ、ムサシにかかれば、このくらいは朝飯前だった。
殴った警備兵が三桁に達しようかというところで、やっとこさ天守閣に辿りつく。
「ここに、ジョッシュ殿がいるはずでござる」
ムサシは鼻息を荒くして天守閣を見上げている。
「レオンティーナ」
「はい。『シーカーポッド』の反応も、この中から届いています」
「おっけー」
さっそく中に踏み入る。
正門をくぐり、庭を抜け、いくつかの小門を抜けた先に、大天守の入口があった。
頑丈そうな木製の大扉はかんぬきが外され開放されている。その奥には、太い柱が並ぶ広間があった。木製の床は、和風の趣を感じさせる。
そして、その広間の中央に、一人佇む女の姿があった。
「あ」
駆け足だった俺達は、三人して立ち止まる。
広間の中央に立つ女は、紫を基調とした着物に身を包み、戦国時代の姫的な雰囲気を醸し出していた。だがその顔立ちは西洋的であり、茶髪のポニーテールに純和風感はない。
「メイさん」
街娘から一転、武家の姫君と衣装替えをしたメイが、真剣な顔つきでこちらを見つめていた。
「ローくん。やっぱり追ってきたんだね」
「たりめーだ。スキルを悪用して暴動を引き起こす女を、放っておくわけねぇだろ」
メイは自嘲的な笑いを漏らす。
「……言い訳はしないよ。あたしにはそうするだけの理由があるからね。そのためなら、特定危険スキルだろうがなんだろうが、使いまくってやるさ」
「開き直るつもりか」
あきれた女だ。
店で働いている時は、気立てのいい美女だと思っていたんだけどな。
フランクリンの話では、友人の彼氏を寝取ったらしいし、やっぱり人間の本質っていうのは外面だけじゃわからないもんだ。
「どんな理由かは知らねぇけど、親コルト派の連中に唆されて、世界を混乱させた。その罪の重さは半端じゃないぜ」
「ハナから覚悟の上さ。どの道あたしには、あまり時間が残されてないんだ」
「なに……? どういうことだ」
「これ以上のお喋りは無用だよ」
メイが目頭を押さえ、瞼を落とす。
あ。あれはまさか。
「ここから上にはいかせない。あんた達には、ここで殺し合ってもらうよ」
次にメイが瞳を開いた時、紫に染まった瞳孔が露わになった。
「おおっ。なんとっ!」
まずい。『魅了のまなざし』だ。
第一種特定危険スキルとまで言われるその視線を、ムサシはもろに浴びていた。
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