第614話 次なる目的
さて、昼になった。
前向きに検討するとは言ったが、すぐに決めるわけじゃない。
とりあえず今は、いくつかある目下の懸念を排除していきたいと思う。
俺は要塞内の食堂で昼食を取っていたマホさんの向かいに座った。
「おう。お前さんか」
「マホさん。その後体調はどうですか?」
「ああ、おかげさまでな。問題ねぇ」
マホさんは山盛りのサラダをもぐもぐしながら、
「なんか食わねぇのか?」
「俺はいいです。それより、聞きたいことが」
「エレノアか」
「はい」
俺の寿命のタイムリミットや、グランオーリスの危機とか、目の前の問題に対処していたせいで後回しになっていたエレノアの件。そろそろ取りかからないとヤバい気がする。
「まったく……エレノアもエレノアだが、お前さんもお前さんだ。今の今までほったらかしとはな」
「言い訳をするつもりはありません」
「たりめーだ。そんで、何が聞きたい?」
「エレノアが神性を得てから、何をしていたのか」
あいつは帝国の聖ファナティック教会の聖女だ。
教皇の目的は世界のリセットだと、ヒューズは言っていた。エレノアの目的が定かではないとも。
マホさんなら、何か知っているんじゃないか。
「アタシがエレノアと一緒にいたのは、あいつが聖女になると決めた時までだ。あいつは神性を得てからも、ちょっとの間は王国の英雄として帝国と戦ってた。それなのに、急に帝国の聖女になるなんて言い出しやがった」
「ヴリキャス帝国の策略ですか?」
「どっちかってーと教会の方だろうな。帝国は帝国で、皇室と教会の覇権争いが続いてる」
「教会がエレノアを聖女に仕立て上げた。教皇とエンディオーネとの間になんらかの密約があったと考えるのが自然ですね」
「ああ」
〈座〉にアクセスできないのがもどかしい。コッホ城塞にはもう戻れないし、エレノアに直接会うしかなさそうだ。
「エレノアはどうして聖女になったんです? あいつの意思はどこにあるんですか」
「……ロートス、心して聞けよ」
マホさんは、グラスの水を一気に飲み干した。
「あいつは誰かに陥れられたわけでも、何かに唆されたわけでもねぇ。れっきとした自分の意思で、聖女になったんだ」
「どうして?」
「くだらねぇ理由さ。だが、だからこそアタシの口から言うわけにはいかねぇ。知りたかったら、あいつに直接教えてもらうことだな」
なんと。
くだらない理由なら、教えてくれたっていいじゃないか。
そう思い食い下がろうと思ったが、やっぱりやめておいた。人の心は複雑だ。
野暮なことは言うまい。
「……わかりました。俺、帝国に行きます。エレノアに会いに」
それしかない。
「アタシは教会から脱走した身だ。一緒には行けねぇぞ」
「マホさんは、ゆっくり休んでください。あとは俺に全部任せて」
「ハッ。言うようになったな。ほんのちょっと前まで……冴えねぇ『無職』のガキだったのによ」
「今やスーパーイケメンヒーローですからね。もしかして惚れました?」
「寝言は寝て言え」
俺とマホさんは互いに笑い合う。
さて、そろそろ本格的に動き出すか。
エレノア奪還計画だ。
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