第613話 説明って大事やね

 翌朝。

 かなりスッキリした俺は、清々しい思いで指令室のドアを叩いた。


「あ、ご主人様。おはようございます」


 ソファの上に、疲れた顔のサラがいた。


「おはようございます。ロートスさん」


 その向かいには、同じく目の下に隈を作ったアデライト先生。

 どう見ても寝ていない。


「二人とも、徹夜?」


「えへへ。今後のことについて、先生に知恵を貸してもらっていたのです。先生の知識と頭脳は、王国最高峰ですから」


「とんでもありません。私も、サラちゃんの見識には驚かされてばかりです」


「それで、朝まで話し込んでいたんですか? 一体なにを?」


「ご主人様の即位についてです」


 ああ。その話か。


「是か非か。是であればタイミングはいつが最適なのか。一晩中サラちゃんと語り合いましたが、答えは出ないままです」


 そりゃ、当の俺がいないからなぁ。

 俺はソファの背に腰を乗せ、二人を交互に見た。


「どうして突然俺を王にするなんて言い出したんだ? 正直、俺はみんなとの間に意識の差を感じてる」


「そうですよね……ボク達の説明不足でした。昨日はちょっと舞い上がっちゃって、場の勢いのまま発言しちゃったのです」


「ロートスさんが来られるすこし前から、この国に正式な王が必要だという話があがったのです。であれば、その座に座るのはロートスさんをおいて他にないと」


 まぁ、あのメンバーならそういう発想に至るのもわからなくもない。


「でも、亜人連邦の王はサラだろ? そのままやりゃあいいじゃんか」


「サラちゃんは盟主ではありますが、女王ではありません」


 何が違うんだろ。国の代表という意味では同じだろう。


「盟主と王とでは、諸外国からの扱いがまったく違います。玉座は、絶対的な力の象徴でもありますから。そして王は、誰でもなれるわけではありません。生まれつきの素養や、英雄的な功績が求められます。加えて、今の時勢においては、圧倒的な強さが不可欠なのです」


「まじですか」


 ドルイドの血統であり、一代で亜人連邦を築いたサラが王に相応しくないのは、乱世という時代に合ってないからというわけだ。


「たしかに先生の言う通り、俺は〈尊き者〉だし、それなりのことをやってきたし、最強無敵の天下無双だ。優れた人格者の超絶イケメンなのも認めよう。ただ、この状況で俺が王になるって、周辺諸国を刺激しちまいませんか? この国を守るためっていう意味なら、それは逆効果なんじゃ?」


「ご主人様の仰ることも一理あります。けど、王国とマッサ・ニャラブ共和国がボク達を放っておくはずありません。遅かれ早かれ、強引な手を打ってくると思うのです。これは機密ですが、すでにジェルド族からは対王国戦線に加われとの密書が届いています。今日明日でどうこうということにはならないでしょうが、そう長くは放置もできません」


「まじか」


 そういう事態だったとは知らなかった。

 言われてみれば、俺が王になった方がいい気がしてきたぜ。


「もちろん無理とは言わないのです。ご主人様は昔から目立つことを嫌っていましたから、王になるなんてもっての外ですよね……」


「いや、そこは別に気にしてないんだ。今さら目立つ目立たないもないだろう。女神達にはとうの前から目をつけられちまってるしな」


 サラと先生の言葉を反芻する。

 俺に王なんて務まるかは疑問だが、結局のところ俺個人の意見なんて俺にとってもどうでもいい。この世界を救うために、どうしたらいいのかを考えるんだ。


「わかった。即位について、前向きに検討してみよう」


 時間がないのはわかるが、じっくり考えることも大切だろう。


「ありがとうございますご主人様っ」


「大丈夫。ロートスさんなら、きっと立派な王になれます」


 サラがぱっと笑顔を咲かせ、アデライト先生が淑やかに微笑む。

 愛する女達の期待と信頼に応える。それもまた男の甲斐性かもしれないな。

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