第612話 ガンガン突こうぜ
夜になった。
俺は要塞の屋上で一人物思いに耽っていた。屋上で物思いに耽るってなんかカッコいいから、というわけではなく、王になるっていう話についてじっくり考えようと思ったからだ。
この世界の人達を救うために戦う決意はしたが、一国の王になるなんて思いもよらなかった。しかも、俺がいない間にサラが苦労して作った国だ。サラの功績を横取りするようで、俺の信条に反する感がある。
「お悩みですわね」
背中に声がかかる。
振り返ると、優雅に歩いてくるアイリスの姿があった。
「そりゃ、急にあんなことを言われたらな」
「心中お察ししますわ」
アイリスは俺の隣にやってきて、夜の地平線に目線を送る。
肩が触れる距離感。夜風に乗って、いいにおいがふわりと漂った。
「お前はどう思う? 俺が王になるって」
「どちらでもよいと思います。わたくしはマスターの選択に従うだけ。たとえどんな道であろうとお供いたしますわ」
のほほんとした笑み。アイリスも俺のことをしっかり思い出している。ぱっと見はわからないが、その瞳はかつて見た感情を鮮明に湛えていた。
「あの森で出会った時から、マスターはずっとわたくしの王ですもの」
空色の長い髪が風に舞う。その艶やかな毛先を、俺はすっと撫でた。
「玉座があろうがなかろうが、関係ないって感じだな」
「仰る通りですわ」
「まったくお前は従者の鑑だぜ。記憶を失っている間も俺と一緒に戦ってくれたし」
「我ながら妙な感覚でした。記憶がなくとも、魂が憶えているのです。だからでしょうか。初対面と信じていたマスターに従うことに、不思議と抵抗はありませんでしたわ。きっとそれがわたくしの運命……いえ、使命なのでしょう」
「ああ」
アイリスの熱を帯びた瞳が、俺を見る。
「ですから。わたくしはこれからもずっと、何があろうと、どれだけ時が過ぎようとも、マスターのお傍におりますわ」
辛抱堪らず、俺はアイリスを抱き寄せた。
豊満な胸の感触。細く引き締まった腰つき。肉付きのいいヒップ。いつか得た感触が蘇り、内なる愛情を沸き上がらせる。
「すこし、冷えますわね」
アイリスが耳元で囁いた。
俺もアイリスも、夜風で体を冷やすほど軟弱ではない。
これはこいつなりの、お誘いの言葉なんだろう。お部屋に行きましょうと、そういう意味を含んでいる。
「あら」
俺はすぐさまアイリスをお姫様抱っこした。
そして、そのまま寝室に直行だ。
「二年前と同じだと思うなよ?」
「ええ、期待しておりますわ。とっても」
人間に姿を変えたスライムが、人の子を宿すのかはわからないけど。
割と本気で孕ませる気で、やってやるぜ。
ふはは。
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