第599話 神より優れたる人やないか
どれくらいの間、機械の中にいたのかはわからない。
一瞬だったような気もするし、とても長い時間だったような気もする。
ともあれ、俺はいつしか失っていた現実の意識を取り戻した。
自身の中に脈打つスキルの胎動を、確かに感じることができる。
俺が得たスキルは、まじですごい性能を持つやつだ。過去、現在、そして未来を包括するような、文字通りの神スキル。
瘴気と併せて用いれば、とてつもない力を発揮するだろう。
今の俺は、この世界の女神をも凌駕する存在になったような気がする。
それはともかく。今はもっと気にすべきことがあるのだ。
機械の扉が、ゆっくりと開いていく。
眩い輝きに照らされながら、俺は一歩ずつ外に踏み出した。
青白い光はすぐに収まった。目の前には、変わらない雑多としたエントランスが変わらず広がっている。
「……ロートスさん」
機械から出た俺を迎えてくれたのは、アデライト先生のなんとも言えない表情だ。
嬉しそうにも見えるし、どことなく悲しそうにも見える。今にも泣き出してしまいそうな微笑みである。
「先生」
「なんだか、変な感じですね。知っているのに、憶えていなかったというのは……」
「思い出しましたか? 俺のこと」
先生は答えない。
にわかに潤んでいく瞳が、すでに答えだった。
どうしようもない愛おしさを覚える。俺がこの世界から消えてしまってから二年とすこし。俺達はいまになって、本当の意味で再会することができた。
すっと先生に歩み寄り、零れそうになる雫を指先で拭った。
「出てきた瞬間、抱き着いてくれるかもって期待してたんですけどね」
「私は年上のおねえさんですから。我慢してるんです」
「そっか」
「あ――」
俺は先生を抱きしめる。
強く強く。壊れ物を扱うよりも丁寧に。
その唇を奪う。
柔らかさと温もりとが、俺の心を落ち着かせ、また昂らせていく。
はじめは強張っていた先生も、次第に俺に身を委ねるようになっていった。
「我慢してたのは、俺の方ですよ」
長い口づけの後、絞り出すように呟く。
「本当は、学園で会った時すぐにでもこうしたかった」
けれどそれは、あの時の先生の気持ちを無視することになる。だから我慢したんだ。
「はい……わかります。今の私と、同じ気持ちだったんですよね?」
先生の手が俺の頬を撫でる。
その微笑みはすべてを包み込んでくれるような、あたかも聖母のようだった。
俺は先生を抱きしめたまま、服の中に手を滑り込ませる。
「あ、あのっ……ロートスさん。せめて、ベッドまで行きません?」
「いやだ。待てない」
近くの機械に先生を押し付けるようにして、再び唇を重ねる。
「もう……」
先生は観念したように、俺の首に腕を回した。
それから、俺の手指の動きに合わせて、色っぽい吐息を漏らす。
視界の端に映っているはずののっぺらぼうの少女のことなんか、二人してまったく見えていなかった。
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