第575話 心強さと
間違いない。
ウィッキーの声だ。これほどの美声はあいつ以外考えられない。
耳にするだけで強大な多幸感に包まれる響きだ。
『んん? もしかしてそこにいるのは、アイリスっすか?』
「ええ。ご無沙汰していますわ、ウィッキー」
『久しぶりっすねー。こんなところまで来るなんて、なにがあったんすか?』
ウィッキーの声は、門の上に設置されたまんまるな魔石から聞こえている。声を発するたびに明滅するそれは、スピーカーとカメラの役割を果たしているっぽい。
『それに、一緒にいる男は誰っすか? 見ない顔っすけど』
俺はさぞがっかりした表情をしていることだろう。
わかっちゃいたが、やっぱりウィッキーも俺のことを忘れてしまっている。そりゃそうだ。仕方のないことだ。
恋しさと切なさが心に押し寄せる。
まぁ、ルーチェやサラの例もあるから、希望はあるか。
『あ、もしかして。あんたがロートス・アルバレスっすか?』
俺は思わず顔を上げる。
「俺がわかるのか?」
『ああ、やっぱりそうっすか。サラと先輩から話は聞いてるっす。なかなか大変な目に遭ってるらしいっすねー』
「……ああ。そうだな」
そうか。よく考えりゃ、俺のことを忘れたからって他の人とのつながりが消えたわけじゃないんだから、連絡くらいはいってるか。
サラも、アデライト先生も、みんなと情報を共有してくれているんだな。
それなら俺にもウィッキーの居場所くらい教えてくれたらよかったのに。まぁ、それどころじゃなかったっていうのもあるんだろうけど。
『立ち話もあれっすから、どうぞ中へ入ってくれっす』
「はい。師匠」
セレンとコーネリアがお辞儀をして、門をくぐる。
なるほど。セレンの師匠ってウィッキーのことだったのか。合点がいった。ウィッキーは魔力の扱いに長けたマルデヒット族だし。
「行こう」
俺とアイリスが門をくぐった瞬間。
「ん?」
急に景色が明るくなった。
薄くなっていた瘴気が、ゼロになったんだ。
亜人街の中には、一切の瘴気がない。周りにはあれだけ濃密な瘴気が満ちていたのに。
「まじか。ここって本当に下層かよ」
セレンについていきながら、周囲を見渡す。
活気のある街だ。道は整備されているし、綺麗な建物がたくさん並んでいる。そこらには多くの亜人達が行き交っていて、婦人たちの井戸端会議や子ども達の楽しそうな声が聞こえてくる。
清潔感のある栄えた街って感じだ。
それがなぜこんな場所にあるのか、甚だ疑問だけど。
亜人街。想像していたものと全然違うぜ、こりゃ。
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