第574話 頑張ったわ
ドームがあったはずの場所に、なぜか門がある。高い塀に囲まれた区域へ続く頑丈そうな鉄の門だ。
もしかして、この先が亜人街なのだろうか。
いや、今はそんなことより。
「コーネリアは?」
視線を巡らせる。
「あそこですわ」
アイリスが指さした先。道の真ん中で、剣を杖に膝をついて肩を上下させるコーネリアの姿があった。
我先にと彼女に駆け寄るセレン。俺達もその後を追う。
「コーネリア」
「殿下……ご無事ですか」
コーネリアの盾はボロボロになっていた。
あの光線を防ぐには上手く受け流さないといけない。正面から受け止めるだけなら、盾が耐え切れなくなっていずれ貫通する。かなり神経を使う戦いだっただろう。
「大丈夫か? 怪我はないか」
「ええ。問題、ありません」
息切れしながら答えるコーネリア。
全ての光線を受け流しきれず何発か喰らったのか。鎧がところどころ欠けているのがその証拠だ。
「ナイスファイトだ。コーネリア」
「はい。ありがとうございます」
ふっと微笑み、息を整えるコーネリア。俺が思い描く凛々しい女騎士の雰囲気を纏っている。
「さて」
俺は現れた鉄の門を見上げる。
「こいつは一体どういうことだ」
「ダンジョンが消滅し、異界が閉じた。正常な空間にあった異物が取り除かれたということ」
セレンが淡々と言うが、なんとなくしかわからん。
「まぁつまり、先に進めるようになったってことだろ」
「そう」
「門をくぐってすこし行けば亜人街です。ようやく目的地ですね」
立ち上がったコーネリアは、剣を納めて門へと向かう。すると、大きな鉄門がひとりでに開いていく。
「歓迎してくれているようです。行きましょう」
「ああ」
俺達は四人連なって、門の先へと歩を進めた。
その瞬間。
「あれ?」
なんだか身体が軽くなったような感じがした。
「瘴気が、薄くなってるのか?」
門をくぐる前と後で、漂っている瘴気の濃度が全然違う。
「亜人街では、瘴気の研究してる。瘴気を減少させる方法も、少しずつ分かってきてるらしい」
「なに?」
セレンの言葉に、俺はまじで驚いた。
「じゃあ、ここの瘴気が薄いのもそのせいなのか?」
「たぶん」
進むにつれ、廃墟だった景色が少しずつ普通の街並みになっていく。
「瘴気を減らせるなら、世界の危機も救えるってことじゃ?」
「わかりません。瘴気の研究は世界各地で行われています。それでも一年間、ほとんど何の成果もあげられていないのです。瘴気に関する情報は得られても、肝心の対策が分からないまま……」
「それでも、実際にこの辺は瘴気が薄いじゃねーか。それに、モンスターもいない。希望はあるってことだろ」
セレンとコーネリアは答えない。
アイリスは微笑んで首を傾げていた。
やがて亜人街に辿り着く。
先程と同じような塀と門。
そしてひとりでに開かれる門。
『おぉー! よく来たっすねーセレン。コーネリアも。待ってたっすよー!』
それはまさに、聞き覚えのある超絶ウルトラな美声だった。
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