第573話 つよつよ同級生

「お」


 勇んで飛び込んだ俺とアイリスを待っていたのは、謎の空間だった。


「これは……」


 青い空。白い雲。キラキラと光る砂浜に、波立つ広い海。


「これが、ドームの中かよ……」


 背後には空間の亀裂がある。ここがあの廃墟の街並みに繋がっているのだろう。


「ダンジョンの妙、ここに極まる。と、言ったところですわ」


 アイリスが微笑んで言う。

 海辺には俺達が蹴散らした小型モンスターの死骸がいくつも転がっている。


「ダンジョンってのは、なんでもアリなんだな」


「ええ。本当に、不思議なところですわ」


 モンスターであるアイリスが言うのだから、しみじみ加減も違う。

 そんなことを思っていると、頭上にある空間の亀裂からセレンが舞い降りてきた。俺の隣に、軽やかに着地。


「ここは純粋なダンジョン。瘴気による街のダンジョン化じゃなく、新たに生まれた異界」


「なんだよそりゃ。つまり、ダンジョンもどきの中にモノホンのダンジョンがあるってことか」


「そう」


 なるほどな。


「で、どうすればいいんだ」


「コーネリアが引き付けているボスモンスターを排除する。そうすれば、このダンジョンは消滅。亜人街への道も開ける」


「おけ。そのボスモンスターはどこにいる?」


 今のところ見当たらないが。


「おそらく、海の中ですわ」


「なに?」


「海中から強い気配を感じます」


「まじか」


「こうなると、あの騎士の方の判断は正しかったと言えますわ。正面から飛び込んでいれば、いきなり海中に放り出されるところでしたから」


「結果オーライ。急がば回れというやつだな」


 中から海水が出てこないのは、何か理由があるんだろう。


「じゃあ、海に魔法でもぶっ放すか。フレイムボルトをしこたまぶち込んで、いぶり出してやろうぜ」


「待って」


 セレンの制止。


「あたしに任せて」


 そう言って海に向かって歩いていく。

 白い両手に魔力が集束していた。膨大な魔力が強い閃光となって一帯を照らす。セレンの頭上に生まれたのは、青白く輝く天使の輪。


「フリジット・エンジェルハイロゥ」


 祝詞のような呟き。天使の輪がふわりと飛翔し、ゆっくりと海面に落ちた。

 直後、視界いっぱいの海が、その水平線まで、一瞬にして凍り付いた。


「うわ。まじかよ」


「凄まじいですわ」


 この魔法を見るのは二回目だが、やはり驚く。超がつく驚愕に値するぜ。


「この様子だと、海底まで凍ってるだろうな……」


 俺が呟き終える前に、空間に異変が起きた。

 青々とした空に、細かい罅割れが生まれる。


「ボスモンスターは消滅したようです」


 アイリスの言葉が紡がれる間にも、罅割れはどんどん拡がっていく。何が起こっているのかと考える間もなく、空は細かい網目状の線に覆いつくされた。

 空が、砕け散る。

 音はしなかった。感じたのは、全身を撫でる温い風だけ。


「ダンジョンの崩壊ですわ」


 唐突に異臭が訪れて、俺は思わず鼻を押さえた。気が付けば俺達は、下層の街に立っていた。

 無数の粒子となって降り注ぐのは、細かく砕け散った魔力の欠片だ。まるで粉雪のように、地に落ちていく。

 ドームは、俺達の前から跡形もなく消えていた。

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