第572話 まるでピザ窯だな

 俺とアイリス、セレンは散開し、ドームの周囲に回り込む。

 正面ではコーネリアが仁王立ちの様相だ。


「さぁ、来るがいい。殻に閉じこもる臆病者よ!」


 女騎士らしい勇ましい叫びが響く。

 それに応えるかのように、ドームの亀裂から赤い光線が飛来した。


「ふんっ!」


 正確に心臓を狙った光線を、盾で防ぐコーネリア。

 上手く弾き飛ばし、斜め後方に反射して飛んでいった。

 続けて発射されたいくつかの光線も、同じように防ぐ。その度に、赤い閃光が廃墟に迸った。

 よし。あの調子なら大丈夫そうだ。


「アイリス」


「はい」


 俺達は目線を合わせる。そのやり取りだけでお互いの意思疎通は完了した。

 正面にそびえるドームには、二つの亀裂が空いている。

 ちょうど人一人が通れるほどの大きさだ。

 俺は右。アイリスは左。

 一直線に走り、突っ込む。中に入っちまえばこっちのもんであるような気がする。たぶん。


 だが、そう簡単にはいかない。

 亀裂から、わらわらと小型のモンスター達が湧いて出てきた。その数は百を超えようとしている。


「なんじゃありゃ」


「中にいるモンスターの下僕か、あるいは子どもかもしれません」


「兵隊か? けど、外に出てきたら……」 


 案の定、上空から飛来した閃光が、モンスターを一つ残らず貫き、焼き払う。


「こうなるんだけどな」


 ところが敵も懲りない。

 どんどん外に出てきては、次々と焼き払われていく。


「どういうことだ?」


「よほどわたくし達を中に入れたくないようですわね」


 たしかに、間断なく出てくる小型モンスターのせいで、亀裂に通り道はない。


「どうする?」


 外に出てきたモンスターは放っておいても死ぬが、まだ中にいる奴らはそうじゃない。


「全部出てくるまで待つという手もあるが……」


「そうなるとあのお方が心配ですわね」


「そうなんだよな」


 コーネリアがいつまで耐えられるか分からない以上、できるだけ早く攻略しないといけない。


「いや、迷っていても仕方ない。いつも通りやろう」


「と、仰いますと?」


「ゴリ押しだ」


 上空から降り注ぐ魔法の間を縫い、亀裂へと駆け抜ける。


「フレイムボルト・レインストーム」


 俺の両手から散った魔力が、無数の炎の短矢を形成する。

 それらは一丸となって亀裂へと吸い込まれていった。

 外に出てこようとしていたモンスターを弾き、ドームの内部になだれ込んだフレイムボルトは、ぼんぼんと小気味よい爆破音を奏でて炎を吹き上げる。


「沸いて出てくるってんなら、出てくるより強く押し込んでやればいいだけだろ」


 更に加速し、俺は亀裂へと迫る。


「フレイムボルト・テンペスト」


 炎の龍にも見紛う凶悪な魔力の波動が、亀裂の中へと潜り込む。

 内部で凄まじい熱量が膨れ上がり、亀裂から勢いよく火炎を噴出させた。


 過去、エレノアが使っていた魔法を見よう見まねで再現した感じだ。

 魔法のコツを掴んだので、こういうことができる。

 どうやら俺には、魔法の才能があったようだ。えっへん。


「行くぞ!」


 俺は、炎で満ちたドームの中へと駆け込んだ。

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