第541話 ここからはじまるファンタジー
馬車から降りた俺を待っていたのは、コーネリアの不満そうな顔だった。
「殿下と何のお話を?」
「おっと。睦言の内容を尋ねるなんて、野暮な騎士団長もいたもんだな」
「ふざけないでください。私は至って真面目です」
「なら聞くな。お姫様からのお達しだ」
面を喰らって、コーネリアは馬車を見る。
窓から覗くセレンの顔は、相変わらず無表情だ。
「それより、これからどうする?」
俺は倒れた騎士が並ぶ野営地を見渡す。
「あんたの考えを聞かせてほしいな。騎士団長さんよ」
「……無論、予定通りメインガンを目指します」
「また同じようなことが起きるぞ。そしたらどうする? このゴロツキ共をちゃんとコントロールできるか?」
コーネリアは俯き、小さな声で言葉を紡ぐ。
「あなたがいますから、大丈夫です」
「また俺が鎮圧するってか? ごめんだね」
驚いたように俺を見るコーネリア。
「何故です? その為に同行しているのでしょう」
「俺はお姫様を守るためにいるんだ。間違っても残念騎士団のお守りをするためじゃねぇ」
「そんな……ではどうしろと? 彼らは、私の命令を聞きません。力で押さえつけることもできない」
「あんたの団長としての資質が問われているってことだろ。甘えんな」
痛いところを突かれ、コーネリアはぎゅっと唇を結ぶ。
「殿下を無事にメインガンまでお連れするには、あなたの協力が不可欠ですっ。殿下をお守りするというのなら、彼らをどうにかするのも同じではありませんか」
「俺はそうは思わないからあんたが頑張れ」
「待って!」
背を向けて馬のところに行こうとした俺の手を、コーネリアが咄嗟に掴んだ。
「お願いしますっ。助けてください! 私にできることなら、なんでもしますから……!」
縋りつくように俺の胸倉を掴んでくる。
「ああそうだ。あなた、私のことを美しいと言っていましたよね? 皆を率い、無事に殿下をメインガンまでお連れできたら、私を好きにしても構いません。どうです? 悪い話ではないでしょう?」
媚びるような笑み。懇願の瞳には涙が滲んでいる。
溜息が漏れるわこんなん。
「はなせ」
俺はコーネリアの手を払いのける。
「あっ……」
「今のあんたは、全然まったく魅力的じゃない。最初にあった時は、まだ騎士としての貫禄が残っていたのにな」
よろめいて後退り、悄然と目を伏せるコーネリア。
「では私は、どうすればいいのですか……?」
その問いは、誰に向けたものでもないだろう。彼女の迷いが、そのまま声となって漏れただけ。
これに答えを示せだって? セレンのやつ、けっこうな難題を持ってきてくれたな。
まったく。
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