第530話 女騎士すこすこのすこ

 そして、堰を切ったように歓声があがった。


「すごい! あのモンスターを倒したぞ!」


「瘴気に侵されたモンスターをあんなに簡単に……? 信じられん!」


「何者なんだ! あの二人は!」


 兵士達は俺とアイリスに賞賛の言葉と視線を送ってくる。

 いやぁそれほどでも。

 一息つく俺達のもとに、隊の責任者らしき女騎士が近づいてきた。


「助太刀、感謝いたします。我らはエライア騎士団。私は団長のコーネリア・カヴァリエーレです」


 兜を脱ぐと、短く斬り揃えられた銀髪のおかっぱ頭が露わになる。意志の強そうなつり目。翡翠のような瞳はどこかで見たことがある色味だった。背が高く、目線は俺と同じくらい。


「俺はロートス・アルバレス。こっちはアイリスだ」


 アイリスがワンピースのスカートを持ち上げ、優雅に一礼する。


「お二人は冒険者とお見受けします。ですが私の無知ゆえか、お二人の名を知りません。どちらからいらっしゃったか。お聞きしても?」


 ふむ。

 コーネリアには多分に警戒の色がある。

 俺達を冒険者だと思っているのは、グランオーリスの国民性だろう。まぁ間違いじゃない。


「俺達は王国から来た。この国のモンじゃない」


「王国から?」


「ああ」


 兵士達がざわざわし始める。


「王国っていえば、あの『百魔統率』と同じだ……」


「まじかよ。王国の冒険者ってのは、みんなバケモンなのかよ」


「馬鹿言うなって。冒険者の質でグランオーリスが他国に遅れを取るかよ」


 兵士達のざわつきを耳にしながら、俺は兵士達に囲まれた豪奢な馬車を一瞥する。

 かなり大きな車両だ。立派な白馬が八頭。ただの貴族じゃない。


「なるほど。王族か」


 もしかしてセレンが乗っているのかもしれない。もしそうならラッキーだ。このタイミングで接触できるのは願ってもないチャンス。助けてくれてありがとう。よかったら一緒に、みたいなことにならないかな。ならないか。

 ともかく、こんな草原のど真ん中にいるってことは、王族をどこかに護送中ってことだろう。それならコーネリアの警戒心も当然だ。


「そう気を張らなくていいぞ。俺達がここにいるのは単なる偶然であって、あんた達を狙ったとかじゃない」


「その言葉を鵜呑みにはできません。空から降ってきたというだけでも、十分に不可思議だというのに」


「言われてみれば」


「それに」


 魔法か、あるいはスキルの仕業か。俺の被っていたフードがひとりでに外れた。


「その痣。瘴気の呪いではありませんか」


 俺の顔を見た兵士達がさらにざわめいた。場に緊張感が走る。


「参ったな。完全に怪しまれてる感じか」


「無礼は承知の上です。しかし、我らは親衛騎士としての責務を果たさねばなりません」


「わかる」


 仮にあの馬車に乗っているのがセレンだとしても、俺のことを憶えていないだろうから助けは期待できない。

 残念だが、ここは穏便に済ませるのが得策かな。

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