第529話 定番じゃん
というわけで、グランオーリスまで一直線に向かった。
高高度を飛ぶアイリスを誰も地上から捉えることはできない。帝国の飛空艇ならできるかもしれないが、ついてくることはできないだろう。アイリスは音速で飛行することも可能なのだから。
そんな速さで飛ぶものだから、グランオーリスまでは何時間もかからなかった。
アイリス様々だな。まぁ、音速に耐えられる俺の肉体があってこそだけど。
ある時、アイリスがゆっくりと速度を落とし、ホバリングに移る。
真昼間の空。眼下には白い雲が流れている。
そのずっと向こうでは、白い雲が急に真っ黒いものに変わっていた。
瘴気だ。
分厚く禍々しい漆黒の渦が、グランオーリスの空を席巻している。
見たらわかる。
「末期だな……ありゃ」
あれじゃあアイリスでも近づけないだろう。
空から神の山に向かうことはできなさそうだ。
「アイリス。このあたりで降りよう」
俺が言うと、アイリスは変身を解いて人型に戻る。
途端に空に投げ出される俺達。
「え? このまま降りるのかよ」
「ドラゴンの姿では目立ちますわ」
「確かに。気が利くなぁアイリスは」
俺達は重力に導かれるまま、頭を下にして真っ逆さまに落下していく。
風圧が強い。まぁ俺達からすれば大したことないが。
そのまま大地に近づいていく。すると、地上の様子がだんだんと見えてきた。
「マスター」
「ああ」
広い草原に、一本の道が通っている。
その道の上には、豪奢な馬車と騎兵、そして数百の兵士が隊列を組んでいた。
そして今まさに、瘴気を纏ったモンスターと戦っているところだった。巨大な四つ足のモンスターに対して、兵士達は明らかに苦戦を強いられている。あちこちに死体が転がっていた。
「助けるぞ」
「かしこまりましたわ」
俺とアイリスは落下の速度を落とすことなく、戦いのど真ん中に着地。
その衝撃で轟音と土煙が発生。ひととき、一帯を埋め尽くした。
「なんだ!」
「空からなにか降ってきたぞ!」
「あれは……まさか、人か?」
兵士達の困惑する声。
俺とアイリスは跳躍して土煙から飛び出し、四つ足のモンスターに飛びかかった。
「合わせろ」
「はい」
高く飛び上がった俺とアイリスを、兵士達が唖然として見上げる。
俺はそれを視界を端に捉えながら、四つ足のモンスターが繰り出した頭突きに拳を叩き込む。アイリスも俺とまったく同じ動きをしていた。
俺達二人のパンチを同時に喰らったモンスターの頭部は、一瞬にして弾け飛んだ。瘴気を使わずとも、アイリスと力を合わせればこれくらいは可能ということか。
頭部を失ったモンスターは、よろよろと後退る。
「やっぱり死なないか」
「頭を失って生きているなんて、まともじゃありませんわね」
「違いない」
呆れたように言うアイリスと、半笑いの俺。
「とどめだ」
俺は人差し指を立て、魔力を集中させる。
「フレイムボルト」
指を振って放った炎の短矢が、モンスターの首の断面に潜り込んだ。
そして、発火。体内に火種を打ち込まれたモンスターは、一瞬にして炎に包まれて息絶えた。
あたりには、束の間の静寂が訪れた。
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