第528話 意義深い旅立ち
「アニキ。もう行くのか?」
砦を出ようとしたところ、ロロに呼び止められた。
その瞳はすこし寂しげだ。
「ああ。グランオーリスに行かないと。呪いがやばい」
「少しくらいゆっくりしてもいいんじゃねーか……? オイラ、アニキがまともに休んでいるところ見たことねぇぜ」
「そうしたいのは山々だけどな」
俺には休む暇がない。精神的にもかなりきついものがある。
でも、そういう時こそ踏ん張り時だろう。
「人生、死ぬ気でやらなきゃいけない時っては必ずある。俺にとっちゃ、それが今だってだけだよ」
それが何日続くか、何か月続くかはわからない。もしかしたら何年何十年と続くかもしれない。
それでも俺は頑張るのさ。そう決めたからな。
「オイラ、まだアニキになんも恩返しできてねぇよ。やっと帰ってきたと思ったら、すぐに行っちまおうとするし……いつになったら恩返しできるんだよ」
拗ねたように言うロロに、俺は思わず笑ってしまった。
「な、何がおかしいんだよ」
「いや」
ロロはロロなりに考えていたんだな。
「別にそばにいなけりゃ恩返しできないってわけじゃない。それにお前はまだ子どもだ。今は自分のことだけ考えてたらいい」
「でも」
「じゃあこうしよう。お前が成長して立派になることが、俺に対する最高の恩返しだと、そう思え。おっかちゃんやおっとちゃんも、それを願ってるはずさ」
「アニキ……」
これはやばい。
今の俺は完全にイケメンすぎる。
「わかったよアニキ。オイラ頑張る。頑張って、アニキみてぇな強い人になる」
「ああ。それでいい。世界を救うような英雄になれ」
俺はまだ世界を救ってないけどな。
いいんだよ。これから救うんだから。
「じゃあなロロ。とりあえず行ってくるわ」
「ああ。気を付けて……くれよな」
「俺はいつも気を付けてる」
ロロに別れを告げ、砦を後にする。
城門が閉まるまで、ロロは俺をずっと見送ってくれていた。
付いていきたそうだったけど、流石に無理だ。
自分の身を守るにも手一杯だってのに、ロロを守りながら冒険するのはきつい。
今回の戦いについてこれそうなのは、砦の外で俺を待っていたこいつくらいだ。
「アイリス」
「お待ちしていましたわ」
スカートの裾を持ち上げて一礼するアイリス。なかなか様になっている。
「すまんな。また乗せてもらって」
「お気になさらず。わたくしがいれば、世界中のどこへでもひとっ飛び。使わない手はありませんわ」
「……サンキュな」
まだ記憶も戻っていないっていうのに、従者として俺を助けてくれるなんて、アイリスには頭があがらないな。
「じゃあ、行くか」
アイリスはエンペラードラゴンに姿を変える。
俺が騎乗すると、一呼吸の間に天空へと舞い上がった。
さぁ。
いざグランオーリスへ。
待ってやがれ神の山。
待ってやがれ、マーテリア。
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