第527話 姦しい
会議終了後。
獣人の兵士に案内してもらい、俺はオルタンシアの部屋を訪れた。
扉をノックすると、中から澄んだ返事が聞こえた。
「入るぞ」
部屋に入ってまず目に入ったのは、窓際に座るオルタンシアの姿。
陽光を浴びる儚げな居住まいは、まるで一枚の絵画のように厳かだ。
「おかえりなさい……種馬さま」
「ああ。ただいま、オルたそ」
俺の姿を見て、眉尻を下げるオルタンシア。
どことなく元気がなさそうだ。
「悪かった。ほったらかしにしちまった」
エレノアに言われたこともあって、女を放置することへの後ろめたさはマックスだ。
「いいんです。種馬さまがお忙しいのは、よく知っていますし」
いい子過ぎる。
「ここでの生活はどうだ?」
「とても快適です。ご飯もおいしいですし」
「よかった」
「それより、種馬さまこそ、その痣……」
「ああ。なかなか男前になっただろ」
顔の痣をさすりながら言うと、オルタンシアの表情が曇った。
「心配するな。これからこいつをどうにかする為にグランオーリスに向かう。もともとの目的とも一致するしな。それに、エルフを呼んで亜人の統一にも動き出した。アナベルを取り返せる日も近いぞ」
オルタンシアはすっと目を伏せる。
「ありがとうございます、種馬さま」
なんだろう。
そこまで嬉しそうじゃない。
「どうしたオルたそ。やっぱなんかあったのか? この俺に言ってみろ」
「でも」
「言いたいことは吐き出した方が健康にいい」
「……ここに来てから、種馬さまのハーレムの方々とお話をしたんです」
「なんかやなことでも言われたか? そんな奴らじゃないと思うけど」
「はい。みなさんとってもいい方ばかりで。見ず知らずの自分に……良くしてくださいます」
ふむ。
ならどうして元気がないのか。やっぱりアナベルが心配なのだろうか。
「皆さんは、すごい方ばかりです。亜人を束ねる盟主。智謀に長けたメイド長。一騎当千の戦士。それに比べて自分は……守ってもらうしか能のない女です。皆さんのように種馬さまのお役には立てません」
「なんだ。そんなことか」
思わず笑ってしまった。
「役に立つとか立たないとか。俺に取っちゃどうでもいいことだ。そんなことよりおっぱいの大きさのほうがよっぽど重要だぞ」
オルタンシアはぽかんとして、自分の胸を触る。
「あんまり……大きくありません」
「大きければいいってもんでもないさ。俺は大きいのも小さいのも等しく大好物だけど、強いて言うなら大切なのはバランスだ」
「バランス……」
「その点オルたそは黄金比だろ? ダ・ヴィンチもびっくりの」
「ふふ。なんですかそれ。よく、わかりません」
笑ってくれた。やったぜ。
「それにな、オルたそ。自覚ないかもしれないけど、お前は一番に鍵の役割を果たしてるんだ。そういう意味では、一番の功労者かもしれないぞ」
「鍵、ですか?」
「ああ。神の山の遺跡で、クリスタルを壊しただろ?」
「はい」
「すごいことだよ」
オルタンシアはまだピンときていないようだ。
だけど、いずれわかる。
俺はアルタンシアの前に膝をつき、彼女を抱きしめた。
「まぁ、変な後ろめたさとかはいらんってことだ。堂々とするんだ」
「堂々と……はい、わかりました」
オルタンシアも控えめに抱きしめかえしてくれた。
素晴らしいな。
「「じーっ」」
視線を感じる。
見れば、ちょっとだけ開いた扉の隙間から、サラとルーチェがこちらを覗いていた。
入ってくればいいのに。
ちょいちょいと手招きすると、二人が勢いよく部屋に突入してきた。
「聞きたいことがあるのですっ」
「ロートスくんとの子どもって、どういうことなの!」
目をキラキラ輝かせながらオルタンシアに詰め寄るサラとルーチェ。
俺はその勢いに吹き飛ばされた。おいおい。
「あ、あの……」
怯えた表情を浮かべるオルタンシア。
「だいじょーぶだいじょーぶ。別に嫉妬とかじゃないのです!」
「そうそう! 単に気になってしょうがなかったの! でもロートスくんがいないうちに聞くのはどうかと思って今まで我慢してたんだから!」
やいのやいの。
女三人で盛り上がり始めた。
まぁ、この分なら心配なさそうだな。
仲良くやってくれそうだ。
ハーレムを作ってもややこしくならないなんて、最高やな。
完全に、ご都合主義やないか。
これこそ俺の隠れチートなのかもしれない。
俺はそそくさと部屋を出る。
さて。
死にたくないし、グランオーリスに向かいましょうかね。
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