第526話 侃々諤々
俺の姿を見るや否や、指令室で待っていたルーチェとロロがそれぞれの笑みを浮かべ、すぐに驚きの表情へと変わった。
「アニキ……それ……」
「呪いの痣が、大きくなってる……?」
やっぱりそこ気になるよな。
「心配ない。順を追って説明する」
俺はソファに腰を降ろした。
「ロロ。水をくれ」
「あ、ああ……」
長い深呼吸を一つ。
ロロが持ってきた水を一気飲みする。
「エレノアに会った」
「えっ」
驚いたのはルーチェだ。
俺は帝国で起こった一部始終を説明する。
みんな、深刻な表情で聞いてくれていた。
俺の説明が終わってからしばらくの間、指令室に静寂が訪れていた。
「聖女……ですか」
サラが呟く。
「エンディオーネは、女神になったとも言ってたな」
「ご主人様のことを憶えていたのは、女神と一体になったからなんですかね?」
「わからん。あいつも俺と同じ転生者だから、そのせいなのかもしれない」
ソファの上で俯いたルーチェは、じっとテーブルを見つめている。
「こう言うとアレだけど……エレノアちゃんが王国を裏切ったのは、ロートスくんのせいってこと?」
「……そうだ」
弁解のしようもない。
俺がマーテリアに負けたから、エレノアが闇落ちした。因果関係を端的に言い表せば、そういうことになるだろう。
聖女になったんだから闇落ちとは言わないのか? いや、聖女だろうが女神だろうが俺にとっちゃ闇落ちだ。
「ロートスくんが傍にいなかったから、エレノアちゃんは聖女になった? うーん……なんか腑に落ちないなぁ」
「なにがだ?」
「ロートスくんがいなくなったのが原因なら、この世界に戻ってきた時点で前提が覆るでしょ? なのにエレノアちゃんは、ロートスくんが帰ってきたってわかったのに聖女をやめない」
「取り返しのつかないところまできちまったとか……?」
「女神と同化したから? そうなのかなぁ?」
「たしかにルーチェの言うことも理解できるぞ。エレノアのやつが何をやりたいのかイマイチよくわからないんだよな。王国を裏切って聖女になって、あいつは一体なにがしたいのか」
「女神は世界の安定を望むんだよね? 帝国が世界の覇権を握ることが、一番の近道だと考えたとか?」
「その可能性は大いにあるが……」
俺とルーチェは二人して考え込む。
「案外、その逆かもしれないでやんすね」
オーサが真剣身のある声で言った。
「逆? どういうことだ?」
「世界の安定ではなく、崩壊を望んでいるかもしれない。ということでやんす」
「まさか、エレノアが?」
「さっきの話を聞いてたらそんな感じがしたでやんすよ。何もかも嫌になって、全てを壊したくなったみたいな」
「いやぁ。流石にそれはちょっと短絡的すぎるというか。それに、ブラッキーを浄化して街を救ったことと矛盾するだろ。崩壊が目的なら放っておけばいい」
「物事は単純に考える方がいい場合もあるでやんす。必ずしも合理的に動かないのが人でやんすから」
「かもしれんけど」
パンパンと、部屋に手を叩く音が響く。アイリスの仕業だ。
「皆さんのお気持ちはわかりますが、そこまでに致しましょう。この場でいくら話し合っても、答えは出ませんわ」
「……たしかに」
熱くなっちまったな。
アイリスの冷静さ、というかほんわかさに助けられた。
「今は、これからどうすべきかを考えよう」
「そんなの決まっているのです。まずはご主人様の呪いをどうにかするのが先ですよ」
サラがすぐさま意見を出す。
「異議なし」
ルーチェが賛同した。
他のみんなも頷いている。
「亜人の統一はどうする?」
「それはあっしらエルフに任せろでやんす。その為にきたのでやんすから」
オーサはつるぺたの胴体を反って誇らしげだ。
「なら、グランオーリスに向かうのが先決か」
みんな、俺のことを心配してくれているんだな。
ありがたいことだ。
今は、自分のことを優先するか。
そうするのがいいと思いますよ。
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