第492話 女神の影
指令室に戻ってきた。
場の雰囲気はえらく真面目である。
「エレノアちゃんが帝国についたって……ほんと、どういうことなんだろうね」
ルーチェのつぶやきは、皆の心境を代弁したものだろう。俺も同じ気持ちだ。
「ルーチェは帝国の生まれだよな? なんか、心当たりとかないのか?」
「ううん。王国に来てからは、あんまり連絡も取っていなかったし。そもそもエレノアちゃんは帝国に任務で行ってるんだよ。それが、どうして寝返りなんて」
重たい空気だ。
「女神の差し金か」
思い付きで口にした言葉に、皆が一斉に顔をあげる。
「ありえるのです」
「それだよそれ。なんで気が付かなかったんだろ」
サラとルーチェが顔を見合わせる。
「なぁアニキ。女神って、ブランドンで言ってたアレか?」
「ああ。エンディオーネとファルトゥール。今の戦争には、裏にやつらの陰謀が渦巻いてる」
エンディオーネは帝国に。
ファルトゥールは王国に。
っていう話だったが。
「となると、エンディオーネ様がエレノアちゃんに何か仕掛けた」
ルーチェの意見に、俺は頷く。
「エレノアはファルトゥールがこの世界に連れてきた転生者だ。それを味方に引き込むってことは、戦力以外の意味もあるんじゃないか」
指令室はぴりりとした緊迫感に包まれている。
「なんにせよ本人に直接聞いた方が早そうだ」
「帝国に向かうの?」
「そうしたいのは山々だが、亜人連邦のことをほっぽって行くのもあれだしな」
時間は限られている。俺が呪いに喰い殺されるまで数十日。やらなきゃならないことが多すぎるぜ、まったくよぉ。
「私が行こうか?」
「いや、ルーチェはサラと一緒にいてほしい。頭脳は必要だろ?」
「ですね。メイド長がいてくれたら、心強いのです」
「じゃあ、エレノアちゃんのことはどうするの?」
「俺が行くさ。けどその前に、連邦の統一にあと一手打っておきたいな。使者としては」
俺は腕を組んで考える。
何かいい方法はないものか。
「あ、そういや」
思い浮かんだのは、この世界に帰還した時のことだ。
「亜人達にとって、エルフってどういう扱いなんだ? エルフだって亜人だろ?」
質問の直後、指令室に衛兵の声が届いた。
「盟主。エカイユの戦士長がお見えです」
サラが俺を見たので、俺は肯定の仕草で応える。
「お通しするのです」
「は」
扉が開く。
「失礼」
一礼して部屋に入ってきた戦士長は、ぐるりと俺達を見回した。
「取り込み中でござったか」
「かまわないのです。御用は?」
「ハラシーフの無事を伝えに来たのですがな……いや、外まで話が聞こえておりましたぞ。亜人がエルフをどう思っているか、と」
戦士長が俺を見た。
「エカイユの見解が参考になるかの?」
「ぜひ聞かせてくれ」
「うむ」
戦士長はぶっとい鱗の腕を組み、話し始めた。
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